下肢のスポーツ障害
- 膝
- ●半月板損傷 ●前十字靱帯損傷 ●後十字靱帯損傷 ●内側側副靱帯損傷 ●離断性骨軟骨炎
●反復性膝蓋骨脱臼(膝蓋骨不安定症) ●棚障害 ●関節遊離体 ●ジャンパー膝(膝蓋腱症) ●オスグッド病 ●腸脛靱帯炎(ランナー膝) ●鵞足炎
●裂離骨折 ●変形性膝関節症(初期~中期・TKA術後) - 下腿
- ●シンスプリント ●疲労骨折 ●肉離れ(筋挫傷)
- 足・足関節
- ●足関節捻挫・足関節靱帯損傷 ●腓骨筋腱脱臼 ●アキレス腱断裂 ●有痛性外脛骨障害 ●距骨骨軟骨損傷(離断性骨軟骨炎)
●第五中足骨疲労骨折(Jones骨折) ●扁平足 ●足底腱膜炎 ●骨端症
オスグッド病(Osgood-Schlatter病)
脛骨粗面(膝のお皿の下)の部分が突出してきて痛みと腫れが生じる疾患です。未成熟で力学的に弱い脛骨粗面への繰り返す大腿四頭筋の牽引力が原因で発症します。成長期に積極的にスポーツをしている小学生高学年から中学生(男児は10~14歳、女児は8~12歳)に発症しやすいのが特徴です。約3割は両側性に発症します。
症状
- お皿の下の骨(脛骨結節)が徐々に突出してきます
- 痛みや腫れ、熱を持ちます
検査
レントゲンでは脛骨粗面の突出、部分的な裂離を認めます。
エコーでは①深膝蓋下滑液包水腫、②膝蓋腱低エコー域、③膝蓋腱周囲の血流シグナル、④膝蓋下脂肪体の血流シグナル等の所見を認めます。
遺残性オスグッド病では膝蓋腱直下に骨化した分離骨片を認め(分離骨片と脛骨粗面・膝蓋腱深層との間に生じた滑液包炎が痛みの原因と言われます)、その近位にドプラモードで血流シグナルを認めます。
↑オスグッド病エコー動画
膝蓋腱の脛骨結節付着部付近にパワードプラモードで血流シグナルを認めます。
左:遠位(脛骨側) 右:近位(膝蓋骨側)
治療法
- 急性期:各種ストレッチなどリハビリ+4~6週間の安静
- 筋肉の柔軟性向上や筋力の改善をすることで痛みや進行を抑えます。インソール療法も可能です
- 内服薬
- 炎症を和らげます
- 亜急性期:注射 2~4週間に1回、ジャンプなどの痛みがほぼ消失するまで繰り返し行います
- エコー下に注射します
- ②のみ見られる場合:膝蓋腱周囲滑液包に
- ④がある場合:膝蓋下脂肪体に局所麻酔薬とステロイド(トリアムシノロン)5mg
- 慢性期:②④がある場合:膝蓋腱周囲滑液包・膝蓋下脂肪体に①に血流シグナルがある場合:深膝蓋下滑液包に
- 遺残性オスグッド病:エコーで血流シグナルのある、分離骨片より近位部に局所麻酔薬とステロイド(トリアムシノロン)5mg
- 注射しても疼痛を繰り返す場合には、遺残骨片を摘出する手術が行われることもあります。
- スポーツ復帰時期や指導についても理学療法士が適切な方法をご提案させていただきます。
予防
- 太ももとの前の筋(大腿四頭筋)のストレッチ
- スポーツ後のアイシング
シンスプリント(脛骨過労性骨膜障害)
陸上の中・長距離走、サッカーやバスケットボールなど、走る量の多い競技の選手のすねの内側に痛みが出ます。中高生に多いです。
筋肉の繰り返す収縮で、すねの骨の骨膜に炎症が起きるものと考えられています。
治療:慢性化を避けるため運動量を減らし、アイスマッサージや足~足首の筋力強化訓練、ストレッチ、足底板の使用、クッション性の高いシューズの使用などが行われます。
シンスプリントのパンフレット
腸脛靭帯炎(ランナー膝)
大腿の外側にある長い靭帯です。腸脛靭帯に摩擦による炎症が起きて生じる疾患です。ランニングをされる方によく起きるため、別名ランナー膝と言います。
腸脛靭帯炎(ランナー膝)の症状
- ランニング時もしくはランニンング後に膝の外側に痛みが生じます
- 膝の外側に圧痛も認めます
腸脛靭帯炎(ランナー膝)の治療
- 内服薬
- 抗炎症薬
炎症を抑え、痛みを和らげます - 神経痛を和らげる薬
神経の興奮を抑え、痛みを和らげます
- 抗炎症薬
- リハビリ
- 筋肉の柔軟性向上や筋力の改善をすることで痛みや進行を抑えます
- 内服薬
- 炎症を和らげます
- 注射
- エコー下に注射します
スポーツ復帰時期や指導についても理学療法士が適切な方法をご提案させていただきます。
腸脛靭帯炎(ランナー膝)の予防
- スポーツ前後のストレッチを十分に行う
- 練習直後のアイシングをする
- シューズが足に合っているものであるか確認する
- 正しいフォームで行う
半月板損傷
膝関節にある軟骨様の板である半月板が損傷して起こります。半月板は膝のクッションの役割があるため、膝に痛みが出たり、膝関節の曲げ伸ばしで引っかかりが出ることがよくあります。
半月板損傷の症状
- 膝に痛みが生じます
- 悪化すると膝に水がたまったり、半月板が膝に引っかかって動かなくなる「ロッキング」という状態になることがあります
半月板損傷の治療法
- リハビリ
- 筋肉の柔軟性向上や筋力の改善をすることで痛みや進行を抑えます
- 内服薬
- 炎症を和らげます
- 注射
- エコー下に注射します
適切なリハビリが大切です。安静も必要ですが、できるだけ早くスポーツに復帰できるよう、復帰時期や指導についても理学療法士が適切な方法をご提案させていただきます。
半月板損傷のパンフレット
膝蓋腱症・膝靭帯炎(ジャンパー膝)
ジャンプやダッシュ、ランニング動作を繰り返すスポーツ選手に好発する、膝を伸ばす腱や筋肉(膝伸展機構)に負荷がかかり炎症が起きることで生じるオーバーユースによる障害です。好発部位は膝蓋腱の近位深層やや内側よりです。膝蓋腱の微小断裂の修復過程の中で強い繰り返し負荷が加わることによって更なる腱損傷が起こり、正常な修復が阻害されて腱の変性に至ると慢性化・難治化することもあります。
エコーでは、膝蓋腱の肥厚、低輝度化、正常腱組織の部分的な消失、時に石灰化を認めます。ドプラ画像で病変部位と膝蓋下脂肪体に血流シグナルを認めることがあります。
治療:理学療法士による動作指導、物理療法等のリハビリ、エコーガイド下注射(局所麻酔薬やヒアルロン酸)などの保存療法が主な治療です(※膝蓋腱断裂の恐れがあるため、トリアムシノロンという強力なステロイド剤は投与しません)。慢性化した重症例の場合は手術が必要になることもあります。
膝蓋腱症(ジャンパー膝)の重症度分類
重症度によってスポーツ制限、治療方針が変わっていきます。中等度以上からスポーツの制限が必要になります。
重症度 | 症状 |
---|---|
軽度 | スポーツで痛みあり |
中等度 | スポーツ中、スポーツ後に痛みあり |
重度 | 痛みが常にある |
最重度 | 膝蓋靱帯の損傷or断裂 |
膝蓋腱症(ジャンパー膝)の治療法
- リハビリ
- 筋肉の柔軟性向上や筋力の改善をすることで痛みや進行を抑えます
- 内服薬
- 炎症を和らげます
- 体外衝撃波
- 衝撃波を当てることで痛みの緩和を図ります
鵞足炎
鵞足と呼ばれる膝の内側の部分(縫工筋、薄筋、半腱様筋の付着部)に炎症が起きる。ランニング、サッカー、水泳といったキックを繰り返すスポーツで発症することが多く見られます。
鵞足炎の症状
- 鵞足と呼ばれる膝の内側に痛む
- 特に階段の上り下りに支障をきたすことが多い
鵞足炎の治療法
- リハビリ
- 筋肉の柔軟性向上や筋力の改善をすることで痛みや進行を抑えます
インソール療法も可能です
- 筋肉の柔軟性向上や筋力の改善をすることで痛みや進行を抑えます
- 内服薬
- 炎症を和らげます
- 注射
- エコー下に注射します
スポーツ復帰時期や指導についても理学療法士が適切な方法をご提案させていただきます。
鵞足炎の予防
- スポーツ前後のストレッチを十分に行う
- 練習直後のアイシングをする
- シューズが足に合っているものであるか確認する
- 正しいフォームで行う
肉離れ(筋挫傷)
症状
典型的なものは、スポーツをしているとき、ふくらはぎの内側の中央上部(上中1/3部)に痛みが生じます。大腿部に生じることもあります。
体重をかけると痛むために通常の歩行が出来なくなります。
原因と病態
スポーツによるものが多く、典型的なふくらはぎの肉離れは、下腿二頭筋の内側頭の筋肉の部分断裂です。大腿部のものは、前面は大腿四頭筋、後面はハムストリングの筋部分断裂です。 筋肉が伸ばされながら収縮すると、筋力に負けて部分断裂を生じることがあります。それが「肉離れ」です。
診断
スポーツ中に強い力がかかった可能性があり、典型的な部位に圧痛があれば、診断できます。時には断裂部の陥凹を触れることもあります。
重症度
筋肉をストレッチした時の痛みで重症度がわかります。
(人に行ってもらう) | (自分で行う) |
予防と治療
重症度により、安静、湿布、ぬり薬、内服薬などの治療法が必要になりますので、医師の診断・治療を受けてください。スポーツ競技に復帰される方は、ストレッチする時の痛みがとれて、健側と同じ通常のストレッチ感(伸されている感じ)になるまでジャンプやダッシュは避けるべきでしょう。 マッサージとストレッチは、治療にも予防にも大切です。
肉離れのパンフレット
アキレス腱断裂
人口10万人当たり6.3~37.3人に発生し、近年は増加傾向にあると言われます。受傷好発年齢は30~40歳代で、50歳以上の年齢層にもう1つ小さなピークがあります。若年層ではスポーツによる受傷が多く、種目別にはバドミントン、バレーボール、サッカー、テニスなどの球技およびラケット使用競技での発生頻度が高いと言われます。高齢層ではスポーツ以外の日常活動中の受傷が多くなります。腱の退行性変化の存在を示唆するアキレス腱の肥厚や、フルオロキノロン系抗菌薬やシプロフロキサシン等の抗菌薬の内服は、アキレス腱断裂の危険因子とされています。
症状
受傷時には、「ふくらはぎをバットでたたかれた感じ」とか、「ボールが当たった感じ」「誰かに蹴られたよう」などの衝撃を感じることが多く、「破裂したような音がした」など断裂した時の音を自覚することもあります。
受傷直後は受傷肢に体重をかけることができずに転倒したり、しゃがみこんだりしますが、しばらくすると歩行可能となることも少なくありません。 しかし、歩行が可能な場合でもつま先立ちはできなくなるのが特徴です。
アキレス腱が断裂していても足首(足関節)は動かすことは出来ます。
原因と病態
アキレス腱断裂は、踏み込み・ダッシュ・ジャンプなどの動作でふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋) が急激に収縮した時や、着地動作などで急に筋肉が伸ばされたりした時に発生します。腱の退行性変性(いわゆる老化現象)が基盤にあると考えられています。
30~50歳のスポーツ愛好家に多く、レクリエーション中の受傷が多いのが特徴です。
診断
アキレス腱断裂は、病歴と理学所見により比較的容易に診断できます。
後脛骨筋、足底筋、長母趾・長趾屈筋により、足関節の底屈や歩行は可能であるものの爪先立ちは不能となります。足関節背屈角度は増大し、足関節底屈筋力は低下します。
アキレス腱断裂部に皮下の陥凹(へこみ)を触れ、同部に圧痛がみられます。うつ伏せで膝を直角に曲げた状態でふくらはぎを強くつまむと、正常では足関節は底屈しますが、アキレス腱が断裂するとこの底屈がみられなくなります (Thompson テスト陽性)。
ほとんどの場合、通常のX線(レントゲン)検査では異常を認めません。問診と理学所見で確定診断がつかない場合には、超音波検査やMRIなどの画像診断が有用です。特に超音波検査は、断裂部の位置や性状を正確に把握できるだけでなく、治癒過程を経時的に追うことができる利点があります。
治療
治療の目標は、アキレス腱の生理学的な長さと緊張を回復させることにあります。治療は、手術を行わずにギプスや装具を用いて治療する保存治療と、断裂したアキレス腱を直接縫合する手術治療があります。それぞれに長所、短所があるので、治療法はよく相談して決めましょう。
【保存療法】
6~8週間の外固定の後に理学療法を開始する従来の保存療法では、10%以上に再断裂が発生するが、近年ではより短期間の外固定の後に足関節の可動訓練や荷重歩行訓練を徐々に開始する機能的リハビリテーション(functional rehabilitation)が導入されてからは再断裂の発生率は3~5%と、手術療法(3.5%)とほぼ同等となりました。一方、スポーツ活動への復帰時期と足関節底屈筋力の回復は、手術療法と比較して有意に遅いと報告されています。
【手術療法】
一般に経皮的縫合術、小皮切からの縫合術、開放手術が行われます。いずれの術式も、保存療法よりもスポーツ活動に早期に復帰できる利点がある一方で、手術に伴う合併症の発生率は5~10%と報告されています。
以上から、スポーツ活動を積極的に行わない患者さまに対しては機能的リハビリテーションによる保存療法を、スポーツ活動を積極的に行っている患者に対しては手術療法をおすすめすることを基本方針としています。受傷後日数が経過している場合や再断裂の場合は手術療法で治療となります。手術療法の場合は提携医療機関をご紹介いたします。
当院で行う保存療法(機能的リハビリテーション)
治療は受傷早期、遅くとも72時間以内に開始することが望ましいです。
足関節を底屈位とすることでアキレス腱の断端同士が完全に接触することをエコーで確認します。もし腱の断端同士が接触しない場合は手術治療をおすすめします。足関節最大底屈位で下腿から前足部までのギプス固定を2~4週間(ギプス固定期間はエコーで観察できる断端の接触の程度で前後します)行った後、足関節を背屈制限し踵部にウェッジが付いた下腿~足を固定するアキレス腱装具を装着し、1週ごとに足関節の底屈を45°、30°、15°、0°底屈位と徐々に底屈角度を減らし、治療開始から約8週で装具を除去します。
荷重は、治療開始後2週間の免荷(非荷重)期間の後、アキレス腱装具装着下での荷重歩行を開始し、治療開始から8~9週で全荷重歩行とします。
腓腹筋の筋力増強訓練は、理学療法士のもとで治療開始後3週目以後から開始し、漸次負荷を増していきます。ジョギングなど軽い運動は治療開始から4カ月、全力でのスポーツ復帰は6~9カ月を目標とします。