腰の痛み
腰の痛みには様々な原因があります。
痛みの性質も、急性のぎっくり腰、慢性化した腰痛、おしりの痛み、下肢痛や足のしびれまで様々です。
当院では詳細な問診と診察を行い、レントゲンやMRI(適宜連携施設に紹介)を併用し原因検索を行います。
慢性的な腰痛には各種内服薬、トリガーポイント注射、物理療法、運動療法などを組み合わせて治療を行います。
椎間板ヘルニア、坐骨神経痛などには硬膜外ブロック(仙骨ブロック)も行っています。
主な症状を記載してありますので、当てはまる方は疾患名をクリックしてご覧ください(例外もございます)。
腰部脊柱管狭窄症 立ったり歩くときに腰や両下肢が痛い、座って休むと楽になりまた歩ける
腰椎椎間板ヘルニア ぎっくり腰など腰痛の後しばらくしたら下肢に痛み
仙腸関節障害 腰とおしりの間が痛い
脊椎圧迫骨折 しりもちをついてから強い腰痛
ぎっくり腰(急性腰痛) 重いものを持ち上げた時や立ち上がる時から腰痛
坐骨神経痛 お尻から腿の裏に姿勢によって痛みが走る
慢性腰痛 3か月以上前から腰痛
椎間関節性腰痛と後枝内側枝 背中を後ろに反らすと腰痛
体軸性脊椎関節炎 安静で悪化し運動で軽快する腰痛
びまん性特発性骨増殖症(DISH) 前かがみになったり後ろに反ることがしにくい60歳以上の方
腰椎すべり症 前かがみや後ろに反ると腰痛
腰椎分離症 スポーツをしている小中学生の持続する腰痛
化膿性脊椎炎・化膿性椎間板炎
【腰痛の原因と治療の目的】
腰痛の原因の中で、注意すべき代表疾患として、脊椎圧迫骨折、腫瘍性疾患、感染性疾患などが挙げられます。これらの病態は、早く治療に取り組まないと、脊髄損傷による下半身の麻痺や、生命の危険に関わることがあるので、早期診断・早期治療が必要とされます。いつもと違う腰痛を感じた場合は、しっかり検査をうけましょう。
次に、腰痛を引き起こす原因について考えてみましょう。腰痛は、骨折・感染症・腫瘍など注意すべき疾患を見つける際の重要な症状(サイン)の一つでありますが、骨や関節、椎間板の変形・損傷といった問題により原因がはっきりとしていることは少なく、腰痛の多くは、原因をはっきりと特定できない腰痛「非特異的腰痛」であることが分かってきました。
腰痛を治療する目的について考えましょう。腰痛を治療せずに放置し慢性化すると、もともと体に備わっている痛みを抑えるシステムが効かなくなり、腰痛が悪化・慢性化し、慢性腰痛の治療に有効とされる運動療法ができなくなるという悪循環にはまってしまいます。そうなる前に、腰痛を我慢せずに早めに治療していくことが重要なのです。
【急性腰痛】
腰痛には大きく分けて、急に激しい症状の出る「急性腰痛」と、症状は緩慢だけれども長期間にわたる「慢性腰痛」があります。いわゆる「ぎっくり腰」などは急性腰痛に入ります。急性腰痛にも、実際に体の組織が損傷して起こる(骨折などのような)ものと、そうでない(原因が特定できない)ものがあります。高齢の女性の方の場合は、「ぎっくり腰」でも、脊椎圧迫骨折を生じている可能性が高くなりますので、しっかり病院で検査をうけましょう。
一般に、ぎっくり腰などの急性腰痛(原因が特定できないもの)になったときは、じっと安静にしているのではなくて、あまり腰に負担をかけない姿勢を心がけて、できる範囲で日常生活を送るほうが、治りが早く、早く仕事に復帰できることが分かってきました。もちろん、痛みが強いときには無理をする必要はありません。
【慢性腰痛】
3か月以上(あるいは6か月)にわたって腰の痛みが続く状態を「慢性腰痛」といいます。非特異的な慢性腰痛では、心理・社会的要因(ストレス)が強く関係している場合が非常に多く存在します。何らかのストレスがある場合、ストレスによって痛みを抑えるシステム(本来人や動物に備わっているもの)がうまく機能しない状況に陥っている場合があります。
ストレスが原因となっている腰痛の人は痛みに対して間違った考え方を持っている場合がしばしば見られます。従って、痛みに対する認知を変えて、痛みにとらわれない考え方を身につけることが大切です。
当院では、このような非特異的な慢性腰痛に対して、薬物療法で痛みを抑えるシステムを改善させ、運動療法と物理療法などを組み合わせて治療いたします。
ご自身でできる腰痛対策としては腰痛体操がおすすめです。
腰部脊柱管狭窄症
腰には馬尾(ばび)といって、下肢へ伸びる神経の束があります。この馬尾は、脊柱管という管に囲まれています。加齢により椎間板が突出したり、靭帯が肥厚すると神経が圧迫されます。
腰部脊柱管狭窄症の症状
- 腰痛
- 下肢のしびれ・痛み
- 間欠性跛行
- 一定時間歩くと痛みやしびれで歩けなくなり、しばらくするとまた歩けるようになること
- 筋力低下
- 膀胱直腸障害
腰部脊柱管狭窄症のスクリーニングには日本脊椎脊髄病学会の診断サポートツールが有用です(表)。
体幹伸展テストまたはKempテスト(斜め後ろに反らすと下肢痛が出る)陽性で,下肢挙上(straight leg raising:SLR)テスト陰性の場合,本疾患の可能性が高くなります。
MRIは,腰部脊柱管狭窄症の画像診断に最も適しています。
腰部脊柱管狭窄症の治療法
内服薬保存的治療が原則です。
- 内服薬
- 抗炎症薬
炎症を和らげ、痛みを和らげます - 神経痛を和らげる薬
神経の興奮を抑え、痛みを和らげます - 血管拡張薬
血管を広げて、神経への血流促進を図ります
- 抗炎症薬
- ブロック注射
- 仙骨硬膜外ブロック
神経の周りに麻酔薬やステロイドを入れて、炎症を和らげます。同時に生理食塩水も入れて、隙間をつくることで、症状を和らげます。詳しくはこちら
- 仙骨硬膜外ブロック
- 手術
- 脊柱管周囲の靭帯や骨を取り除くことで、圧迫を和らげます
- 手術が必要なケース
- 耐え難い痛み
- 間欠性跛行が10分以内
- 筋力低下や麻痺
- 膀胱直腸障害
よくある質問
- 手術をしたら、若い頃のように痛みやしびれから開放されますか?
- 手術で神経が若返るわけではないので、手術をすれば、若い頃に戻るわけではありません。症状の一部(しびれや筋力低下)は残ると考えたほうがよいと思います。
- 足のしびれはとれますか?
- しびれを感じる神経は、細くて圧迫などのダメージを受けやすく、回復に時間がかかったり、回復しきれないケースも多いです。
基本的には、長期間存在するしびれ(特につま先や足の裏など)はあまり改善しないと考えた方がよいと思います。患者さまによってはSNRIと呼ばれる内服薬などで下肢~足のしびれが軽減することもありますので、試してみる価値はあると思います。
腰椎椎間板ヘルニア
ヘルニアとは、体内の臓器などが、本来あるべき部分から脱出した状態を言います。椎間板ヘルニアは、腰骨の、骨と骨のクッションの役割を果たしている椎間板という部位にある髄液が出て、神経を圧迫し、痛みやしびれをともなう疾患です。
腰の骨は前側の椎体と後側の椎弓に分かれています。椎体と椎体の間にあるのが、椎間板です。椎間板は外側の線維輪と内側の髄核に分かれています。髄核はゼリー状で、外側の線維輪が何らかの原因で亀裂を生じると髄核が出てきて、神経を圧迫します。これが腰椎椎間板ヘルニアです。一般的に腰痛の原因というと椎間板ヘルニアが考えられがちでしたが、実際には全体の数%程度でそれほど多くないことが分かっています。また椎間板ヘルニアの約90%は自然治癒が期待できることもわかってきました。ただし、排尿・排便障害、下肢のしびれ・力の入りにくさなどの神経症状がある場合、病院での早めの治療が必要になることがあります。
腰椎椎間板ヘルニアの症状
- 腰痛
- 下肢のしびれ・痛み
- 筋力低下・麻痺
- 膀胱直腸障害
※筋力低下・膀胱直腸障害は手術が必要なケースが多いです
∧障害された神経根に応じて、下肢に痛みやしびれといった神経症状が出ます
腰椎椎間板ヘルニアの治療
保存的治療が原則です。
- 内服薬
- 抗炎症薬
炎症を和らげ、痛みを和らげます - 神経痛を和らげる薬
神経の興奮を抑え、痛みを和らげます
- 抗炎症薬
- ブロック注射
- 仙骨硬膜外ブロック
神経の周りに麻酔薬やステロイドを入れて、炎症を和らげます
同時に生理食塩水も入れて、隙間をつくることで、症状を和らげます 詳しくはこちら - 神経根ブロック
神経の根本(神経根)に局所麻酔剤やステロイドを混ぜたものを注射します
- 仙骨硬膜外ブロック
- 物理療法 牽引や、血行改善の装置が有効な場合があります
- 手術
- ヘルニアを取り除き、神経の圧迫をとります
- 手術が必要なケース
- 耐え難い痛み
- 筋力低下や麻痺
- 膀胱直腸障害
よくある質問
- しびれはとれますか?
- しびれを感じる神経は、細くて圧迫などのダメージを受けやすく、回復に時間がかかったり、回復しきれないケースも多いです。基本的に、しびれは改善しないと考えた方がよいと思います。
仙腸関節障害
仙骨(仙骨)と腸骨(腸骨)の間を仙腸関節(せんちょうかんせつ)といいます。
中腰での作業やスポーツのサイドステップなどで片足への荷重が繰り返しされ、関節の障害が起こります。
レントゲンやMRIでも、異常が見つからないため、原因不明の腰痛とされることが多いです。
産前・産後の腰痛やギックリ腰の原因の一つです。
後述する脊椎関節炎の可能性もありますので、腰痛が長引いている方は整形外科専門医を受診してください。
仙腸関節障害の症状
症状は多彩であり、画像では異常がみられないことも多いため診断が難しいという特徴があります。
One finger test、Gaenslen test、Newton testなどの診察により診断します。
- 腰痛・臀部痛・鼠径部痛(股関節痛)
- 片側の下肢痛
- 長時間イスに座れない
- 仰向けがきつい
- 痛い方を下にして寝れない
- 歩行開始時に痛みがあるが徐々に楽になる
- 正座は大丈夫なことが多い
仙腸関節障害の治療法
保存的治療が原則です。
- 内服薬
- 抗炎症薬:炎症を和らげ、痛みを和らげます
- ブロック注射
- 仙腸関節ブロック:エコーを使用して正確に注射をします
- 骨盤ベルト
- コルセットよりもさらに下で巻くことで骨盤を締めます
よくある質問
- 普通のコルセットで骨盤ベルトの代用はできますか?
- できません。仙腸関節にしっかりと力を伝えるために、通常のコルセットよりも幅をせまくした骨盤ベルトで仙腸関節を安定化させる必要があります。
脊椎圧迫骨折
背骨のことを脊椎といいます。脊椎の前側の椎体という場所がつぶれてしまうことを圧迫骨折といいます。骨粗鬆症の方に多い特徴があります。
尻もちをついた、勢いよく座ったなどの軽い外力でも骨折することがあります。
全く外傷の自覚がない【いつのまにか骨折】の好発部位です。
脊椎圧迫骨折の症状
背部痛・腰痛が強いことが多いですが、痛みがわずかで本人が骨折に気づかないこともあります。
レントゲンだけでは判断できないこともあり、MRI検査を追加することもあります。
他の脊椎の圧迫骨折や大腿骨の骨折を起こす骨折連鎖【ドミノ骨折】に移行すると高率に寝たきりになってしまいます。
一度骨折してつぶれた脊椎の変形は元に戻りませんので、徐々に背中が丸くなっていってしまいます。日ごろから骨粗しょう症の危険性をご理解いただき、必要な検査と治療を継続していくことが予防につながります。
脊椎圧迫骨折の治療法
保存的治療が原則です。
- 内服薬
- 抗炎症薬:炎症を和らげ、痛みを和らげます
- 骨粗しょう症の治療 詳しくはこちら
- コルセット
- 通常のコルセットよりも長いタイプを使用することで骨折部位を安定させます
- 手術
- 骨癒合が遅いときや、神経症状がある場合に行います。
よくある質問
- 普通のコルセットで圧迫骨折用のコルセットの代用はできますか?
- できません。骨折部をしっかりと安定するにはしっかりと背中全体を覆う必要があります。
脊椎圧迫骨折が治ってコルセットが外してよいと言われたら、骨粗しょう症の治療は辞めてもよいですか?
骨粗しょう症の治療を辞めることはおすすめできません。骨粗しょう症の治療を継続しないと次の脊椎圧迫骨折や大腿骨近位部骨折を起こす危険性が加齢とともにどんどん増していってしまうからです。骨粗しょう症の治療にはいくつか選択肢がありますので、患者さまの状態に最適な方法をご提案いたします。
脊椎椎体骨折のパンフレット
骨粗しょう症について詳しくはこちら
ぎっくり腰(急性腰痛)
ぎっくり腰とは、急性腰痛症の通称で、突然腰の痛みをともない、動くことが困難になる疾患です。
ぎっくり腰と一言で言っても、原因により治療方法は様々で、先ずは医師による診断が必要です。場合によっては椎間板ヘルニアなどの疾患、脊椎圧迫骨折などの重傷である場合があります。痛みがなかなか治まらない、下肢のしびれや痛みが出てきた、正確な診断なく民間療法を受けるなどの場合は特に悪化の恐れがありますので、基本的には安静のうえ、医師の診察を受けてくださいますようお願いいたします。レントゲン(場合によっては期間をあけて複数回)、必要に応じMRIなどの検査を行い、腰痛の原因に応じた適切な治療を行います。
坐骨神経痛
椎間関節性腰痛と後枝内側枝
腰痛は椎間関節(脊椎と脊椎の間の関節で、左右にある)をはじめ、椎間板、神経根、傍脊柱筋などの要素が絡み合い、さまざまな原因で生じると言われています。
その中でも、椎間関節に起因する痛みは腰痛の主要な原因のひとつと考えられています。
神経根症状(下肢痛や下肢のしびれなど)がなく、脊椎の横の椎間関節部に一致した部位に圧痛があり、背屈(背中を反らせること)や腰をねじることで腰痛が出る場合は腰椎椎間関節由来の痛みの可能性があります。
椎間関節を支配する神経として後枝内側枝というものがあり、各後枝内側枝が関連する腰痛の領域が過去の研究によって以下のように明らかになっています。
∧L1~S1の各後枝内側枝の関連痛の部位
「脊髄神経後枝内側枝の電気刺激による腰椎椎間関節性疼痛の分析」日本ペインクリニック学会誌Vol.3No.1,29~33,1996)より
椎間関節性腰痛の可能性が疑われる場合、後枝内側枝や椎間関節のブロック注射を診断的治療として行うことにより、腰痛が改善する可能性があります。後枝内側枝は腰のかなり深い場所(腰椎横突起付近)に存在するため、エコーガイド下で正確な注射を行うのは現時点では難しいと考えられますが、今後腰痛治療の選択肢の一つとして重要度を増すと考えております。
体軸性脊椎関節炎(axial spondyloarthritis:axial SpA)
腰や背中などの痛みにはさまざまな原因がありますが、長引く場合には免疫系の病気である可能性もあります。その中の1つが、体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎・X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)です。
体軸性脊椎関節炎とは、何らかの原因によって免疫のはたらきに異常が生じて正常な体内の組織を攻撃し、腰や背中といった体軸の関節や、腱付着部(筋肉と骨が付着する部位)などに炎症が起きる疾患群の総称です。
脊椎関節炎(spondyloarthritis:SpA)の分類
体軸性脊椎関節炎は、脊椎関節炎の中の1つです。脊椎関節炎は、背骨や骨盤などの関節に炎症が起こる病気の総称であり、診断名ではありません。
脊椎関節炎は、背骨などに炎症が起こる体軸性脊椎関節炎と、手足など末梢の関節に炎症が起こる末梢性脊椎関節炎の2つに分けられます。また、体軸性脊椎関節炎や末梢性脊椎関節炎も診断名ではなく疾患群の総称であり、それぞれいくつかの病気が含まれています。
強直性脊椎炎とX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎
体軸性脊椎関節炎は、強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis:AS)と、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(non-radiographic axial SpA:nr-axSpA)に大別されます。
強直性脊椎炎はレントゲン検査で仙腸関節に変化が認められるものを指し、国の指定難病とされています。
患者の傾向
多くは10~20歳代で発症し、痛みのピークが20~30歳代、40歳代に入ると次第に痛みが落ち着き、人によっては強直が強くなってくることが一般的です。
男女比は、強直性脊椎炎では3:1と男性の方が多く、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎は1:2と女性の方が多いことが分かっています。
体軸性脊椎関節炎と遺伝子の関係
体軸性脊椎関節炎は特殊な遺伝子の型であるHLA-B27との関連性があり、日本では人口の約0.3%がHLA-B27陽性と報告されています。
陽性者のうち強直性脊椎炎を発症するのは10%未満で、2018年に行われた全国疫学調査では約3,200人と推定されました。また、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の推計患者数は約800人とされています。
日本人のHLA-B27陽性者は諸外国と比べて多くはありません。これに連動して、日本人の強直性脊椎炎やX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の発症者も諸外国と比較して少ないため、診断が遅れがちです。強直性脊椎炎の場合、日本では症状が出てから診断が確定するまで平均で9年前後かかっているという報告もあります。
体軸性脊椎関節炎の原因
現在のところ体軸性脊椎関節炎のはっきりとした原因は不明ですが、前述したとおりHLA-B27と関連があることが分かっており、患者さんの多くがHLA-B27の遺伝子を持っています。親子や兄弟姉妹など家庭内での発症も報告されていることから、遺伝がある程度関与していると考えられています。
また、HLA-B27を持っているからといって必ずしも体軸性脊椎関節炎を発症するわけではありません。遺伝以外に細菌感染などの何らかの後天的な要因でも発症すると考えられています。
体軸性脊椎関節炎の特徴的な症状
体軸性脊椎関節炎でよく見られる初期症状は、腰や背中、うなじ、骨盤のこわばりや痛みです。肩や股関節、胸骨と肋骨・鎖骨の関節部、かかとなどに痛みが出ることもあります。
特徴としては、夜間などに安静にしていると痛みが強くなり、運動するなどして体を動かすとよくなることがあります。また、痛みが強いときとまったく痛みがないときがあり、症状の出方の波が激しいことも特徴です。
この特徴的な痛み(炎症性腰背部痛)は3か月以上続き、時間が経つにつれ悪化していきます。徐々に痛む場所が増え、痛みの頻度が増し、痛みのない時間が短くなります。最終的には常に痛みが出ているようになります。
痛み以外では、病気の経過にかかわらず、体のだるさ、疲れやすさ、食欲減退・体重減少、微熱、貧血などの全身症状が見られる場合もあります。
X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎から強直性脊椎炎に移行することも
X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎では強直性脊椎炎と同程度の強い症状が見られることも珍しくなく、QOL(Quality of Life:生活の質)の低下をもたらします。
また、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎から強直性脊椎炎に進行することもあり、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の患者さんのうち、強直性脊椎炎へ進展するのは2~10年で10~40%、生涯で50%程度といわれています。ただし、強直性脊椎炎へ進行しない人や寛解(治癒したわけではないものの症状が落ち着いて安定した状態)する人もおり、個人差があります。
重症化したときに見られる症状
体軸性脊椎関節炎が進行すると背骨や腰が強直し、背骨が次第に前に曲がったまま固まって前傾姿勢となってしまう場合があります。体を反らす、見上げる、振り返る、腰を曲げるなどの動作に支障が生じます。前傾姿勢によって肺活量が低下する場合があるほか、長期の炎症に伴って骨密度が低下し背骨の骨折の頻度が高くなります。ただし、全ての患者さんが強直をきたすわけではなく、進行のスピードも人によってさまざまです。
合併することのある病気
体軸性脊椎関節炎では、前部ぶどう膜炎という目の病気を伴うことがあり、発症すると目の痛みや充血、飛蚊(ひぶん)症(目の前に糸くずや蚊のようなものが飛んでいるように見える症状)などが生じます。まれに大動脈弁閉鎖不全症、アミロイドーシス、尿路結石などの病気や、皮膚、呼吸器の疾患を合併することもあります。
体軸性脊椎関節炎の診断方法
体軸性脊椎関節炎は、専門の医師以外による診断が困難な病気です。腰痛にはさまざまな原因がありますが、上記のように特徴的な症状があり治療を受けてもなかなか治らない場合には、専門の医師に一度相談してみましょう。体軸性脊椎関節炎を発症しているか判断するには、まず診察や簡易的な検査から始め、必要に応じて詳しい検査を行います。検査の結果、強直性脊椎炎もしくはX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎と診断されたら、患者さんの状態に応じた治療を検討することになります。
強直性脊椎炎およびX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎は診断が難しく、症状が出てから診断が確定するまで年単位の時間がかかることも珍しくありません。診断には専門的な知識を要することから、これらを専門とする医師による診察・検査が必要です。強直性脊椎炎とX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎では、一般的に臨床症状とX線検査から診断を行います。
臨床症状
腰や背中の痛みの有無、“動くとラクになる”など痛みの特徴、背骨の曲がりにくさ、深呼吸をしたときに胸囲が正常に膨らむかなどを診察で調べます。臨床症状は自分で気付くことができるものでもあるため、気になる症状があれば医師に相談してみるとよいでしょう。
画像所見や他疾患の除外
その次にレントゲン検査やMRI検査で、骨盤の骨の1つである仙骨と腸骨の間にある仙腸関節の変化を確認します。強直性脊椎炎とX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の違いは、X線検査による仙腸関節変化の基準を満たすか満たさないかということですので、画像所見は診断に必要不可欠です。
また、診断には類似するほかの疾患の可能性を除外することも必要となります。似た疾患の例としては、線維筋痛症やびまん性特発性骨増殖症(DISH)などが挙げられます。
体軸性脊椎関節炎の検査方法
体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)の診断にはレントゲン(X線)やMRIなどの画像検査が必要不可欠です。また、血液検査を行う場合もあります。
レントゲン検査
まずはレントゲン検査で、仙腸関節の隙間が狭くなっていないか、靱帯が石灰化していないか、強直していないかなど仙腸関節の変化を確認します。これらの変化が認められない場合にはX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎を疑います。
強直性脊椎炎の20~30%の症例では、脊椎が骨性に固まって動かなくなる、すなわち強直した状態の竹様脊椎(bamboo spine)を生じることがあります。
∧強直性脊椎炎のレントゲン像:bamboo spine
ただしX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の一部は強直性脊椎炎に移行することもあり、進行するにつれてレントゲン検査で仙腸関節に変化が現れてくることがあります。
MRI検査
発症初期にはレントゲンでは異常が見られないことも多いため、ほかの病気との区別をつけるうえでMRI検査が有用です。また、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の診断においてはMRI検査の所見が指標となります。
MRI検査はレントゲン検査よりも時間がかかり高額ですが、脊髄(せきずい)や仙腸関節などを詳しく観察できます。レントゲン検査とMRI検査の特徴を生かし、適した検査を行うことが重要です。
血液検査
体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)では多くの場合、赤沈やCRPなどの炎症反応の値や、MMP-3(マトリックスメタロプロテイナーゼ-3)が上昇します。ほかの免疫系の病気ではリウマトイド因子や抗核抗体などの項目が高くなるのに対して、強直性脊椎炎やX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎では高くなりません(検査値については下表参照)。
また、患者さんの多くがHLA-B27の遺伝子を持っていますが、これも血液検査で調べることができます。ただし、HLA-B27の検査は保険適用外となります。
赤沈 | 赤血球が沈降する速度。炎症の広がりなどに関係する。 |
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CRP | 炎症や組織壊死があると血液中に増加するたんぱく質。炎症性の疾患によって上昇する。 |
MMP-3 | 関節リウマチ患者の関節内や血中に多く含まれている酵素。関節軟骨の破壊に関係している。 |
リウマトイド因子 | 主にリウマチ患者に見られる自己抗体。関節リウマチ患者の多くが陽性となる。 |
抗核抗体 | 細胞の核に反応する自己抗体。膠原病であると陽性になることが多いが、陽性であっても無害であることもある。 |
治療
現在(2020年9月)のところ、体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)を完全に治す治療法は確立されていません。しかし、治療によって痛みをコントロールし強直の進行を防ぐことでうまく付き合っていける病気です。
X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎については近年提唱され始めた病名ですが治療薬も出始めており、強直性脊椎炎に準じた治療が行われます。
薬物療法
強直性脊椎炎やX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の治療でよく用いられるのが、鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)と生物学的製剤です。通常はまず鎮痛剤を使用し、鎮痛剤で痛みのコントロールができない場合に生物学的製剤を用いて治療を行います。
・鎮痛剤(NSAIDs)
鎮痛剤の主な効能は痛みの緩和です。多くは内服薬の使用で痛みが和らぐといわれていますが、効果が不十分な場合は必要に応じて治療を強化していきます。手足など末梢(まっしょう)部分の関節に炎症がある場合は、抗リウマチ薬の使用も検討されます。ただし、鎮痛剤は腎臓や胃に負担をかけるため、長期使用によって腎障害や胃腸障害が起こることもあります。
・生物学的製剤
生物学的製剤とは、生物から産生されるたんぱく質などの物質を応用して作られた薬のことで、人間の体の中に存在する物質を制御して病気を抑える作用があります。鎮痛剤は飲み薬として服用するのに対して、生物学的製剤は点滴または皮下注射で投与します。現在、尋常性乾癬の治療にも用いられるコセンティクス®(セクキヌマブ)が保険適応となっています。効果には個人差がありますが、強直性脊椎炎やX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の約7割の患者さんに有効性が認められています。
生物学的製剤には、免疫を抑制するために肺炎、結核、肝炎といった感染症にかかりやすくなるなどの副作用があります。しかし、鎮痛剤では痛みを抑制しきれない場合などにも有効である可能性があります。
鎮痛剤 |
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生物学的製剤 |
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運動療法
痛みの緩和や背中・骨盤などの機能を維持するために、柔軟体操やストレッチ、水泳などの運動が効果的な場合があります。ただし、患者さんの状態によって理想的な運動の種類や運動の強さが異なるため、医師の指示に従って行うようにしましょう。
手術療法
関節や膝関節の痛みが強く、動きも悪くなって日常生活に大きな支障をきたすような場合には、人工関節全置換手術が検討されます。背骨が強く前屈みになったまま強直している場合には、背骨の角度を伸ばす手術を行うこともあります。
患者の負担を軽減するサポート制度
治療費が高額となる場合、高額療養費制度などのサポート制度があります。また、強直性脊椎炎については2020年9月現在で指定難病に認定されているため、強直性脊椎炎と診断され症状の程度が一定の重症度基準を満たす場合には、指定難病患者への医療費助成制度も利用することができます*³。
早期発見・早期治療が大切
体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)を悪化させないためには早期発見・早期治療が大切です。気になる症状がある場合は、専門医への受診を検討するのもよいでしょう。ただし、スムーズに受診するためにもまず主治医に相談し、紹介状を書いてもらえないか相談するとよいでしょう。また、いずれの治療法にもリスクや副作用があります。医師とよく相談したうえで決定し、医師の指示に従って治療を受けることが大切です。
びまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis;DISH)
DISHは主に椎体前面の前縦靭帯(ぜんじゅうじんたい:anterior longitudinal ligament:ALL)を中心に骨化し広範な脊椎強直を起こす非炎症性の脊椎病変です。脊椎を中心として主に腱や靭帯,関節包が骨に付着する部位(enthesis)の石灰化,骨化を特徴とします。骨化が大きいと食べ物を飲み込むときに違和感を感じたり、腰痛や背部痛の原因にもなります。後縦靭帯骨化症(OPLL)や黄色靭帯骨化症(OYL) を合併することも多いです。DISHの多くは50歳以上で発症し,女性よりも男性に多く,人種間でも差があり,最も多いのは白人系で、アジア人ではその頻度が低かったと報告されています。日本では65歳以上の8.7~10.8%(男性13.1~22.0%,女性2.5~4.8%)にDISHがあったと報告されています。脊椎、特に中下部胸椎〜上部腰椎・頚椎に好発し、椎体の前方(前縦靭帯)および側方に突出する骨化・骨棘形成が4椎体以上にわたって連続性にみられます。側面の骨化は通常両側性です。発症の危険因子としては,高齢,男性,肥満,糖尿病,高尿酸血症などの生活習慣病と関連し、近年増加傾向にあります。病因はまだ解明されていませんが,遺伝的要因の関与も指摘されています。
症状
前縦靭帯の骨化により、脊椎の動きが悪化します。
DISHが腰痛や上背部痛の原因となるかどうかに関しては,DISHにより脊椎は不撓性(しなやかに曲がらなくなること)を起こすが腰痛には影響を与えないという報告もあり,DISHそのものが痛みを引き起こすことは現在証明されていないのが実情です。
診断・検査
DISH の画像診断基準は以下の3項目です。
①4つ以上の椎体にまたがる連続性の骨化あるいは石灰化②罹患領域で椎間板は比較的保たれ、椎体辺縁の骨硬化、vacuum phenomenonなどの椎間板変性所見がない
③椎間関節や肋骨椎体関節、仙腸関節に骨硬化や骨癒合がない
のすべての条件を満たすことで診断されます。
鑑別疾患
DISHとの鑑別では、強直性脊椎炎がDISHと紛らわしいことが多いですが、異なる病態です。DISH の方がより高齢で炎症所見がないこと、および仙腸関節炎を伴わないことなどで鑑別できます。ASは自己免疫疾患による慢性進行性の炎症性疾患であり,主に体幹に近い四肢関節(特に肩関節,股関節),脊椎,仙腸関節を含みます。20歳代の男性に好発し,初発症状は背部の痛みと進行性の脊椎の可動性の減少です。画像所見としては,X線写真で,一側あるいは両側の仙腸関節炎,竹の節のように連続的に連なって変形し,癒合した脊椎(bamboo spine)が特徴的で,DISHと類似した画像所見を呈します。強直性脊椎炎はDISHと異なり炎症性の疾患であることから,背部の痛みを引き起こすことが特徴です。
変形性脊椎症は脊椎の加齢性変化を主とした椎間板の狭小化や椎体の骨棘形成が原因となり,頸部痛や腰痛などの疼痛を呈した脊椎疾患の総称です。病変部位により変形性頸椎症(頸椎症),変形性胸椎症(胸椎症),変形性腰椎症(腰椎症)と表現します。
治療
DISHにおいては,脊椎が骨強直により可撓性(しなやかに曲がる性質)を失うことで,軽微な外力でも脊椎骨折をきたすことが知られています。DISHに合併した椎体骨折の保存治療では,他の椎体が動かないため骨折部位にどうしても力がかかってしまい骨癒合しにくく、骨癒合が得られるまでに誤嚥性肺炎や認知症などの合併症をきたす可能性があること、また脊髄神経にも負担がかかるため遅発神経麻痺をきたす可能性もあることから,原則として手術治療(脊椎固定術)を行います。
∧DISHのCT画像:第12胸椎から第4腰椎の椎体前方に骨化あるいは石灰化を連続性に認める
腰椎すべり症
∧腰椎すべり症のMeyerding分類:レントゲン側面像で椎体上縁を4等分し、すべっている椎体の後下縁の位置ですべりの程度をしめす