股関節の痛み
股関節の痛みには適切な診断のもと、各種鎮痛薬やリハビリ、関節内注射などの治療を行っています。
骨折がある場合は適切な治療を受けられる病院へ紹介させていただくこともあります。
主な症状を記載してありますので、当てはまる方は疾患名をクリックしてご覧ください(例外もございます)。
変形性股関節症 立ち上がる時や歩行で股関節が痛い
大腿骨近位部骨折 転倒してから股関節が痛くて歩行困難な高齢者
特発性大腿骨頭壊死 ステロイド治療したことがある方や飲酒の多い方で、立ち上がる時や歩行時に股関節が痛い
グロインペイン症候群 サッカーなどスポーツをしていて股関節周辺が痛い
単純性股関節炎 けがをしていないのに股関節を痛がるか、うまく歩けない3~10歳児
ペルテス病 けがをしていないのに股関節を痛がるか、うまく歩けない活発な痩せ気味の3~10歳児
大腿骨頭すべり症 けがをしていないのに股関節が痛い太り気味の小学校高学年~中学生
股関節唇損傷
股関節インピンジメント症候群
変形性股関節症
股関節は骨盤と大腿骨をつなぐ関節です。大腿骨の上部(大腿骨頭)は丸くなっていて、骨盤側の受け皿にはまっています。
大腿骨頭の表面は、軟骨で覆われ、滑りやすくなっているので、股関節が自在に動きます。
変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減り、骨盤側の寛骨臼と大腿骨頭がこすれて変形が進行する病気です。
変形性股関節症の症状
変形性股関節症は、股関節に痛みが出現し、関節の動く範囲(可動域)が少なくなります。股関節は鼠径部(脚の付け根)にあるので、最初のうちは、立ち上がりや歩き始めなどの動き始めに痛みを感じることが多く、関節症が進行すると痛みが強くなり、場合によってはじっとしていても痛みを感じたり(安静時痛)、夜寝ていても痛む(夜間痛)ことがあります。
また、動いているときも痛みが強くなり、脚の長さの差が出たり、筋力が低下することもあるため、体が左右に振れる歩き方になってしまう方もいます。
日常生活では、足の爪切りがやりにくくなったり、靴下が履きにくくなったり、和式トイレ使用や正座が困難になります。また長い時間立ったり歩いたりすることがつらくなりますので、台所仕事などの主婦労働に支障を来たします。階段や車・バスの乗り降りも手すりが必要になります。
変形性股関節症の原因と病態
患者さんの多くは女性です。原因は発育性股関節形成不全の後遺症や臼蓋形成不全(股関節の形成不全)といった幼少時の病気や発育障害の後遺症が多いとされています。
最近は高齢者の増加により、特に明らかな原因となる病気がなくても年齢とともに股関節症を発症することがあります。
変形性股関節症の診断
上記の症状がある場合、問診や診察などのあとで、股関節の可動域制限や単純X線(レントゲン)写真を撮って診断確定します。
必要に応じてCTとMRIなどの検査を行います。
ごく初期(前期関節症)では関節がきゃしゃであったり軽微な変形があるだけですが、関節症がすすんで初期関節症になると、関節の隙間が狭くなったり(軟骨の厚さが薄くなる)、軟骨下骨が硬くなったり(骨硬化)します。
さらに進行期関節症、末期関節症となると、関節の中や周囲に骨棘とよばれる異常な骨組織が形成されたり、骨嚢胞と呼ばれる骨の空洞ができたりします。
最終的には体重がかかる部分(荷重部)の関節軟骨は消失し、その下にある軟骨下骨が露出します。
変形性股関節症の治療法
診断されたらまず股関節の負担を減らして大事に使うということが重要です。
- 抗炎症薬(NSAIDs)
痛みを軽減します。連日内服するよりも、できれば調子の悪い時やどうしても負担をかけなければならない時に限定して使うことをおすすめします。外用剤(湿布)を用いることもあります。 - 弱オピオイド製剤
強力な鎮痛作用を持ちます。 - SNRI
下降性疼痛抑制系を賦活化し、痛みを抑えます。 - 減量
関節への負担を減らします。杖の使用もおすすめです。 - リハビリ(理学療法)
痛みがあるとどうしても歩かなくなり筋肉が衰えてしまいますので、股関節周囲の筋力強化を行い、関節への負担を減らします。できれば水中歩行など股関節に体重のかからない運動を行っていただくと理想的です。当院では理学療法士による運動療法の中で日常生活指導も併せて行います。 - 脚の長さの差がある場合は、差を減らすための足底板(差高)を用いることがあります。
- 関節内注射
エコーを使用して、正確に関節内に注射を行います。
2021年5月より、ヒアルロン酸にジクロフェナク(消炎鎮痛薬NSAIDの一種)を化学的に結合させた、ジョイクル®(一般名ジクロフェナクエタルヒアルロン酸ナトリウム)が発売され当院で採用しております。
従来のヒアルロン酸と異なり、変形性膝関節症だけでなく、変形性股関節症にも保険適応です。投与間隔は4週に1回です。
ジョイクル 関節注30㎎を使用されている方へ - 手術
初期では骨の向きを変える骨切り術の適応となることもありますが、関節の変形が進行している場合も含め多くは傷んだ骨の一部を取り除き、人工の関節に置き換える人工股関節置換術を行います
大腿骨近位部骨折
骨粗しょう症の方は、転倒などの軽微な外力で大腿骨(もも)の付け根が骨折します。日本では年間10万人以上がこの骨折を起こすと言われています。寝たきりや死亡の原因となることも多く、手術が必要なことが多いです。骨折の部位や折れ方により、骨を金属で固定する手術や、骨(大腿骨頭)を金属に置き換える手術が行われますが、受傷前の歩行能力を維持できる方は少ないと言われています。
日ごろから骨粗しょう症の検査と治療をしっかり継続し、骨折を予防することが最も重要であることは言うまでもありません。当院では骨粗しょう症による骨折連鎖を防ぐため、様々な取り組みを行っております。
大腿骨近位部骨折のパンフレット
骨粗しょう症について詳しくはこちら
特発性大腿骨頭壊死症
症状
特発性大腿骨頭壊死症の症状は、比較的急に始まる股関節痛と跛行です。長い時間かかって進行する変形性股関節症と違って比較的急性に発症しますので、関節の変形による機能障害は初期にはあまり見られません。
原因と病態
身体の他の組織と同じように骨にも血液循環が必要なのですが、元々血流障害を起しやすい場所があります。大腿骨頭はその代表的な部位で、軟骨で被われた大腿骨頭が関節内に深く納まっているため血管が少なく、血流障害を起すと骨の壊死が引き起こされます。この壊死した骨の部分が大きいと体重を支えきれなくなって、潰れて(陥没変形)しまい痛みが出てくるわけです。
潜函病(せんかんびょう)といって潜水夫が浮上してくるとき血液中に生じた気泡が骨の中の血管に詰まり発症する、大腿骨頚部骨折後に発症するものなどが知られていましたが、現在は原因がはっきりしていない場合「特発性」大腿骨頭壊死症と呼んでいます。
本邦では年間2000人程度の発症があることが知られていますが、男性ではアルコール多飲、女性ではステロイド(副腎皮質ホルモン)剤の服用(特にステロイドパルス療法:大量のステロイド剤を短期間に投与する方法)に関連して生じることが多いことが分かっています。
診断
診断は早期にはレントゲンで変化が見えませんので、疑われたらMRIを撮ります。
MRIで帯状低信号域などの特徴的な所見があれば確定します。
治療
股関節痛が出た時は既に陥没しかかっていると考えられます。
初期は比較的強い痛みがありますが、杖の使用や局所の安静、投薬で治まる場合も多いです。骨壊死の範囲が広い場合や、ステロイドの使用などで骨粗鬆症が強い場合は陥没変形に歯止めがかからない場合が多いのですが、男性で骨が丈夫な場合など徐々に痛みが楽になることもあります。
壊死範囲が広く変形が進行する可能性が高い場合には、自分の骨を使う手術として大腿骨内反骨切り術や大腿骨頭回転骨切り術という手術を行うことがあります。これらの手術の目的は大腿骨の形状を変化させることにより荷重面(体重のかかる部位)に健常な関節面をもってくることにより陥没変形の進行を抑えることにあります。
また年齢にもよりますが、既に変形が進行してしまい自分の骨を温存する手術をすることが困難と思われる場合は人工股関節手術の適応となります。