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慢性疼痛・慢性腰痛の治療

痛みとは  整形外科で扱う痛み  急性疼痛と慢性疼痛  慢性疼痛の治療

Body Joint Pain

 

痛みとは

 

痛みについての話で、よくこの図が使われます。例えば「打撲をした膝が腫れあがった」痛みを侵害受容性疼痛と言います。これに対し、神経が損傷されて生じた疼痛、例えば「椎間板ヘルニアに伴う坐骨神経痛」を神経障害性疼痛と言います。また、さらにこのどちらにも含まれない、器質的原因のない痛み、すなわちストレスや環境因子による心因性疼痛。しかし、この3つに簡単に分類されるほど痛みというものは単純なものではありません。

痛みだけをターゲットとして診察、治療を考えてしまうと、間違いなく深い闇をさまようことになってしまいます。なぜなら痛みは他の人と共有できない、情動的側面を持ち合わせているからです。痛みの治療で最も重要なことは、痛みを診るのではなく、痛みを有している人を診るということです。身体だけでなく、メンタル、職業やスポーツなどその人のすべてを診る、そして何がその人の痛みに関与しているのかを探ることが重要です。
みなさん、痛くて痛くてツライときに薬や注射は一時的な効果しかないから我慢する、もしくは診断を付けて根本的に治したい、と思ったことはありませんか?実は、これは必ずしも正解ではありません。医師も患者さんも、痛みには必ず原因があり、必ず病名がつく…と考えがちです。しかし、日常診療で原因のわからない痛みなどいくらでも存在します。実際、腰痛においても多くは原因不明の非特異的腰痛とされています。そんな時、「鎮痛剤や注射などで一時的な鎮痛を図るのは無駄だ」という考えが、より患者さんを悩ませ、抑うつ傾向になり、不眠になり、さらに痛みを強く感じさせ慢性化…これが痛みの悪循環です。

 

整形外科で扱う痛み

皆さん、我が国ではどのような症状で悩んでいる人が多いかご存じですか?厚生労働省が平成25年に発表した国民生活基礎調査によると、男性では1位:腰痛、2位:肩こり、3位:鼻づまり・鼻水、4位:せき・たん、5位:関節痛で、女性では1位:肩こり、2位:腰痛、3位:関節痛、4位:体のだるさ、5位:頭痛の順となっています。我が国には痛みで悩んでいる人がとても多いのです。特に整形外科が扱う腰痛、肩こり、関節痛は男女とも5位までに入っています。腰痛の原因には椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、骨粗しょう症など様々な疾患が含まれています。肩こりの中には、五十肩と呼ばれるものが含まれている場合もあるでしょう。関節痛の原因には変形性関節症、関節リウマチなど、こちらも様々な疾患が挙げられます。いずれも慢性的に持続する可能性のある厄介なものです。

 

急性疼痛と慢性疼痛

 怪我や病気などにより急に現れた痛みは急性疼痛で、身体に対する有用な警告システムであり、傷や腫れが治るとともになくなります。

それに対し、慢性疼痛は、ケガやキズが通常治るはずの期間を超えて3ヶ月以上継続する痛みで、神経の損傷や異常が原因となる場合や患者自身の気持ちやストレスによる影響がある痛みをいいます。

日本では2000万人前後(5~6人に1人)が慢性疼痛を抱えて生活していると国内調査により報告されています。持続的な痛みがあると、日常生活や仕事に支障を来たし、これまで出来ていたことが出来なくなることによって楽しめなくなったり、それをきっかけに引きこもったり、抑うつ状態になり不安を感じるようになることもあります。さらにそのことが精神的な負担になり痛みがより悪化してしまうこともあります。

運動器の慢性疼痛は、器質的および心理的・社会的な要因が関与しあって、病態の悪化や痛みの増悪につながっていることが多いです。 器質的要因とは、神経、筋肉を含めた軟部組織や骨など運動器の各組織において病理的・解剖的な異常が生じたことにより引き起こされる疾患・疾病による要因のことです。 一方、心理的・社会的な要因とは、意欲、抑うつ度、健康や生活への不安、家族生活や学校・仕事場のストレスなど、年齢や環境、社会的立場まで考慮したストレス環境による要因のことです。 慢性疼痛のメカニズムを理解し治療するには、身体の器質的要因だけでなく、心理的・社会的要因も含めて考え、複雑に絡み合っている病態を多面的に分析して治療を行う必要があります。

 

慢性疼痛の治療

当院では、痛みの原因を特定するために様々な検査を受けることが可能です。患者さんが抱えるその痛みが慢性疼痛であればどの程度まで複雑になってしまっているかを判断して個々人にあった薬や運動療法などの治療法を選び、普段の生活で何ができるようになりたいのかなどの希望を伺いながら、痛みを緩和し、充実した日常生活を送れるように治療やサポートを行います。
「痛みをゼロにする」という考え方よりも少し痛みがあっても身体を動かすことができ、痛みでできなかったことを1つずつ改善していきながら気持ちを楽にして痛みと上手に付き合っていくことを心がけましょう。
日常生活の工夫として、常に正しい姿勢を意識し、寝起きの動作、椅子の高さ、車の運転、作業姿勢などを注意するだけでも痛みの軽減が期待できます。また、日常でかかえるストレスが大きいほど、痛みの感じ方も強まるといわれています。食事や睡眠をしっかりとり、息抜きができる時間、楽しい趣味をもつなどストレス解消に努めましょう。

整形外科では手術適応がない疾患に対しては手術を行わない保存療法による治療も広く行っています。保存療法には薬物療法をはじめ、関節内ヒアルロン酸注射ハイドロリリース装具療法理学療法、運動療法物理療法神経ブロックなどがあり、さまざまな治療を上手く組み合わせて痛みを和らげていきます。前述した痛みの悪循環に陥らないためには、適切なタイミングに適切な薬剤の内服や注射を行い、決して痛みを放置したりしないことです。痛みがある体で運動療法など到底行えませんので、運動療法を行うためにも速やかに痛みを除去する必要があるのです。また、鎮痛せずに我慢して、慢性疼痛に移行させてしまうことは避けなければなりませんので早めに治療すべきです。

痛みの程度と種類を、患者さんの身体状態や精神状態から察知し、より早急に痛みから解放して、痛みの悪循環に入り込ませないこと、そして痛みが除去できたら、メディカルチェックおよび適切な運動指導を行い、それを患者さまご自身で運動を継続していくことが治療成功への道であると考えます。

慢性疼痛の薬物療法

疼痛治療において薬物療法はなくてはならないものです。今までは痛みの末梢の部分のみをターゲットとして行ってきた薬物療法に頼りがちでしたが、近年、慢性疼痛に対する薬物療法は目覚ましい進歩を遂げています。以前から汎用されている非ステロイド性鎮痛消炎剤(NSAID)やアセトアミノフェンに加えて、痛みの伝達回路をターゲットに、痛みをなるべく脳に伝えないように制御する薬や、人がもともと持っている痛みを抑える力を回復させる薬などが登場し、様々な薬剤が使用されています。骨粗しょう症に対する骨吸収抑制剤や骨形成促進剤にも鎮痛効果が認められています。なお、慢性疼痛に移行した神経障害性疼痛や心因性疼痛に対しては、NSAIDの効果は残念ながら乏しく、延々と内服しているとデメリット(副作用)の方が上回ってしまうことも考えられます。

薬剤をいくつかご紹介いたします。

  1. 三環系抗うつ薬(トリプタノール等)

1960年代に開発された古い薬ではあるが、抗うつ作用に加え、高い鎮痛特性を有することが明らかとなっています。そのため平成21年9月から厚生労働省が『慢性疼痛におけるうつ病、うつ状態』に対する使用を認められました。神経障害性疼痛のほか、慢性頭痛に対する効果が認められており、薬物乱用頭痛や群発頭痛に対してもよく用いられます。

  1. SNRI(サインバルタ等)

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤である。三環系抗うつ薬で問題となる抗コリン作用(口渇 、顔面紅潮 、悪心、胃部不快感、食欲不振 、便秘 、眠気 、目眩い 、立ちくらみ)が少なくなっています。 SNRIは下行性疼痛抑制系の賦活作用により鎮痛効果を発揮します。人には痛みをなるべく脳に伝えないように制御する下行性疼痛抑制系というシステムが存在し、それを賦活化することにより、痛みを感じにくくするのです。


∧サインバルタ(一般名デュロキセチン)の作用

3.末梢神経障害性疼痛治療薬(リリカ、タリージェ)

神経痛は神経細胞にカルシウムイオンが作用して痛みの伝達物質が過剰に放出されることにより起こります。中枢神経系においてカルシウム流入を抑制し、興奮性神経伝達物質の遊離を抑制することにより、過剰に興奮した神経を鎮め、痛みを和らげます。

4.弱オピオイド製剤(トラマドール塩酸塩)(トラムセット、トラマール、ワントラム、ノルスパンテープ等)

オピオイド受容体に直接作用するほか、セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、下行性疼痛抑制系を賦活し、神経因性疼痛への鎮痛効果を発揮します。

慢性疼痛の理学療法・運動療法

慢性疼痛に対する理学療法の原則は
 運動すること(筋肉を使って体を動かすこと)は良いこと
 運動をしないこと(筋肉や体の一部を不活動にすること、過度の安静)は良くないこと
です(但し過度なトレーニングは注意が必要です)。身体は適度に運動することでその機能を維持することが可能です。また運動することで痛みの感じ方が軽くなり、少量の薬で十分な鎮痛効果が得られるといわれています。痛みがコントロールできるようになったら運動療法を行いましょう。

当院のリハビリテーション部門で専門スタッフ(理学療法士)が以下の流れでリハビリテーションを実施します。
① 身体評価(疼痛が生じやすい動作・痛みが緩和する姿勢の評価 )
② 治療:ストレッチやマッサージで筋肉・関節をやわらかくする(深部へのマッサージを通じて局所の血流増大をはかる、末梢から中枢へ向けたマッサージによりリンパ液の灌流増加をはかる、筋や筋膜の緊張をほぐす) ことで
③ 動かしやすいコンディションにし
④ 筋力トレーニング、体力づくりを行うセルフケアの指導
これにより、慢性疼痛の改善、身体動作の柔軟性獲得、生活動作時の筋力向上が期待できます。

整形外科領域で痛みの多くは、身体機能の低下が根底にあることが多いと言えます。体の柔軟性の低下、筋力の低下、バランス能力の低下・・・これらが原因で脊椎や関節疾患をきたし、その結果痛みが発生してしまうのです。痛みだけを薬でコントロールしても、この身体的な不具合を改善しなければ、また同じ痛みを繰り返してしまいます。痛みが治まってようやく、治療のスタート地点(リハビリができるようになった)に立てた!と考えてください。身体機能の低下は、努力すれば必ず改善できます。通院してのリハビリだけでは残念ながら不十分なので、最後はやはり自らの努力で運動するしかありません。具体的な内容はしっかり指導させて頂きますので、一緒に頑張っていきましょう。

ご自身でできる痛みの対策としても自主トレーニング・運動は重要です。
当院で患者さまにお渡ししているパンフレットをぜひご利用ください。

腰痛体操
肩の自主トレーニング①
肩の自主トレーニング②
変形性膝関節症の運動療法
膝の自主トレーニング①
膝の自主トレーニング②

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