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ハイドロリリース

 

超音波エコー装置を用いて注射をする治療法の一種です。これまでは、押して痛い部位を探して局所麻酔薬などを注入する方法(トリガーポイント注射)が一般的に行われてきました。しかしその場合「深さ」は考慮されないため、効果にばらつきが出るのが欠点の一つでした。しかし近年、運動器超音波装置の精度が飛躍的に進歩し、注射に併用される機会が増えました。超音波装置を使用することで、圧痛部位の中を「見える化」でき、目的の深度・部位まで到達して注射することが可能になりました。これにより効果が一定になる、血管や神経を避けられる、診断精度が高まる、患者さんも見えるので情報を共有できる、など大きな価値が付加されました。

痛みの発生源は筋肉を包む膜(筋膜)や、周囲組織と癒着した神経に発生しやすい事が分かっています。ハイドロリリースとは、筋膜・神経などに生理食塩水に麻酔薬を混ぜた薬液を注入して癒着を剥離(リリース)し、局所の可動性が悪くなった筋膜や末梢神経に滑走性をつくることで痛みや痺れを軽減する治療法です。また注射により症状が改善すれば原因が特定できます。

当院では以下の流れで筋肉や神経の痛みに対してハイドロリリースを行います。

  1. 問診や診察から痛みの原因となっている筋肉・筋膜や神経の部位に目星をつけてエコーを当て、痛みの原因となっている部位を探します。
  2. リリース部位を決めます。
  3. エコーを使って注射の針先を目的の部位にピンポイントで誘導し、薬液を注入する事で物理的に筋膜や神経の癒着をはがします。

筋膜の癒着が剥がれると筋肉の滑走性が改善し、痛みが和らぎます。神経や血管は筋膜の中を走行しているので、リリースにより神経や血管の圧迫が解除され、神経障害性の痛みや血流障害に伴う痛みも緩和されます。上手く筋肉が緩むと、患者さまの中には「肩や腕が軽くなった」「手の痺れが軽くなった」などの感想をおっしゃる方がおられます。使用する薬液は、必ずしも局所麻酔薬である必要はなく、生理食塩水やヒアルロン酸などの麻酔作用を持たない薬液でも同様かそれ以上の効果を持つとされています。当院では、肩こりや、五十肩、筋肉由来の腰痛、手根管症候群などの神経のトラブルなどに多用しています。

痛みに対するハイドロリリースはストレッチやマッサージなどの理学療法、物理療法と併用すると効果的です。痛みが消失しても、生活習慣や身体の使い方が変わらなければ症状を繰り返すこともあるため、予約制で理学療法士によるマンツーマンリハビリを行っています。運動療法で筋肉をつけ、正しい姿勢を保持する事で症状の再燃を防ぎます。特に、慢性の肩こりや腰痛をお持ちの方は、日常生活動作での不良姿勢や仕事での姿勢や動作に伴う筋肉への過剰な負荷が原因となっていることが多いので、1回リリースを行ってもまた戻ってしまうことがあります。そのような方は、定期的なリリースと理学療法・物理療法の併用が有効です。

当院では、できるだけ細い針を使用して、皮膚に刺すときの痛みを軽減する工夫をしています。注射による痛みをゼロにできるわけではありませんが、ゼロに近づけるよう工夫をしています。 

ハイドロリリースは注射という医療行為が伴いますので、ごくまれに緊張や注射行為により血圧の低下などからくる迷走神経反射により気分不快を生じる場合があります。上記症状は避けられない事象ですが、比較的なりやすい体質の方もいらっしゃいます。1度でも経験のある方は診察時に伝えていただけると診察がスムーズに行えますので、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

肩こり

  • 僧帽筋と肩甲挙筋という筋肉の間の筋膜、そこを通る神経周囲に注射を行います。
  • 筋膜にある血管を同定し、血管を傷つけないようにして、薬液をいれていきます。薬液の注入によって神経とその周囲組織、筋膜同士の癒着がはがれるため、症状が改善すると考えられています。
  • 個人差はありますが、薬液を注入している最中や直後から症状が軽くなったと言われる方もおられます。
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 ▽エコーガイド下 僧帽筋・肩甲挙筋間ハイドロリリースの動画です

  

 

後頭部の痛み

頚部~後頭部の痛みの原因に、大後頭神経の滑走障害や周囲組織との癒着があげられます。
筋緊張性頭痛、片頭痛、頚肩腕症候群、外傷性頚部症候群(頚椎捻挫)、帯状疱疹後神経痛などによる後頭部の痛みに対し、診断的治療として大後頭神経のハイドロリリースを行います。

 

五十肩・肩関節の痛み・可動域制限

  • 痛みや可動域制限の原因となっている部位を問診や診察により同定し、ハイドロリリースを行います。
  • 肩の痛みや可動域制限の原因は多岐にわたります。痛みや制限されている肩の動きにより、肩峰下滑液包、烏口上腕靭帯、肩甲上神経(肩甲上切痕・肩甲棘切痕)、腋窩神経(四辺形間隙)、棘下筋、小円筋など多くの部位にハイドロリリースが有効であることがわかっています。
  • ハイドロリリース以外にも、肩関節内注射、上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎にもエコーガイド下注射は有効です。
  • 肩関節の手術後の痛みや可動域制限にもハイドロリリースは有効です。
  • 理学療法士との個別リハビリを併用して行うとより効果的です。
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筋筋膜性腰痛に対する傍脊柱筋ハイドロリリース

傍脊柱筋とは背骨に沿って存在する筋肉のことです。
傍脊柱筋付近に圧痛のある腰痛として、筋筋膜性腰痛(傍脊柱筋同士の癒着)や椎間関節性腰痛が考えられますが、前者は前屈(前かがみ)で痛みが強くなり、後者は背屈やねじりの動きで痛みが悪化することが多いとされています。

傍脊柱筋による腰痛が疑われる場合、鎮痛薬内服や物理療法、理学療法のほか、傍脊柱筋のハイドロリリースを診断的治療として行います。

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膝の痛み

 膝の痛みの原因には、大きく分けて関節内(関節構成要素)の要因と関節外の要因があります。
 関節内の要因としては、軟骨の摩耗(変形性膝関節症)、半月板損傷、関節水腫、関節炎、靭帯損傷などがあります。
 関節外の要因としては、滑液包炎、鵞足炎、膝蓋腱症(ジャンパー膝)、オスグッド病などのほか、上内側膝神経障害、下内側膝神経障害、腓骨神経障害、伏在神経障害等の神経障害による痛みがあります。
 レントゲンで異常がないと言われたのに痛みが続く方、変形性膝関節症に対してヒアルロン酸注射を受けているのに痛みの軽減がない方などでは、神経の滑走障害や周囲組織との癒着などによる神経障害の痛みである可能性があります。
 当院では、これらの神経障害が疑われる方に対しての診断的治療として、エコーガイド下ハイドロリリースを行っています。注射の効果がある場合はその神経障害による痛みが原因の一つと考えられますので、理学療法士による徒手療法も併用して治療を行います。
 

肘部管症候群

肘の内側にある「肘部管」と呼ばれる狭い管を通過する部位で、尺骨神経が周囲組織による圧迫を受けたり癒着することで(絞扼性神経障害)、手の小指・薬指のしびれや手の筋肉の萎縮を生じます。

尺骨神経を圧迫するガングリオンの存在の有無をエコーで確認し、Tinel徴候(神経を叩いて放散痛を生じること)の陽性部位による絞扼部位の同定、肘の屈伸に伴う尺骨神経の脱臼・亜脱臼の有無、尺骨神経の偽神経腫(絞扼部位の近位で神経が太くなること)などをチェックします。

上腕骨内上顆部や尺骨手根屈筋入口部で尺骨神経をエコーガイド下にハイドロリリースします。

尺骨神経に伴走する血管を同定し、血管を傷つけないようにして、薬液をいれていきます。薬液の注入によって神経とその周囲組織との癒着がはがれるため、症状が改善すると考えられています。


∧肘内側走査 尺骨神経短軸像
a: ハイドロリリース前 b: ハイドロリリース後 尺骨神経が低エコーの液体で包まれている(ドーナツサイン)

肘部管症候群について詳しくはこちら

 

手根管症候群

  • 手首のひら側の比較的浅いところに正中神経という神経が圧迫や何らかの原因で周囲の組織と癒着が起こると、親指から薬指にかけてしびれや痛みが生じます。
  • 正中神経のまわりに薬液を取り囲むように注射を行うと痛みが軽快することが多いです。
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ハイドロリリースに関するQ&A

1. 筋膜リリースとハイドロリリースは同じなのですか?

インターネットで「筋膜リリース」を検索すると、スポーツジム、健康器具、針灸、カイロプラティック、マッサージなどがヒットします。それぞれの分野がそれぞれの方法で筋肉痛を緩和する事を筋膜リリースと呼ぶようです。一方、医療の世界ではFasciaと呼ばれるさまざまな組織を包む膜の表面に出現する発痛源を注射などで治療する方法をFasciaリリース、ハイドロリリースと呼びます。Fasciaは筋肉だけでなく靭帯、脂肪組織、腱など、さまざまな組織を包む膜の総称です(筋膜は筋肉を包む膜)。そのためFasciaリリースは筋肉以外の組織の痛みの治療にも用いられます(靭帯のリリース、腱のリリース、神経のリリースなど)。液体を用いて治療するのでハイドロリリースとも呼ばれます。最近では整形外科の分野でも一般的にハイドロリリースと言われることが多いため、当院でもハイドロリリースと呼んでいます。

2. ハイドロリリース はどのような症状に効果があるのでしょうか。

ハイドロリリースは、筋肉の収縮と硬直が成因となった肩こりや腰痛、神経の癒着が原因の痛みには、とても有効な治療法です。また、肩関節周囲炎(五十肩)が治癒した後に筋肉や靭帯の伸びが悪くて肩が動かしづらい時などに固まった筋肉や靭帯をリリースする事で、肩の動きを改善する効果が期待できます。同様に、変形性膝関節症などで膝の周囲の靭帯の伸びが悪くて動かしづらい時にも靭帯のリリースで軽快する場合があります。また、頚椎症、坐骨神経痛など、神経の痛みを持つ患者さんの多くが、筋肉の収縮や硬直による肩こりや腰痛を合併しておられるので、神経ブロックで痛みが残るときに筋膜リリースを併用すると軽快する場合があります。痛い部位を無理にかばう事が成因と思われます。さらに、末梢神経の圧迫や周囲の組織との癒着による手や足の部分的な痺れの治療に神経のリリースが奏功する場合があります。

3. ハイドロリリースが効かない首、肩、背中の痛みにはどのようなものがありますか?

首、肩、背中の痛みが筋膜や神経の癒着由来のものであればハイドロリリースは有効です。逆に、関節内の炎症、頸椎や脊髄の病気(椎間板ヘルニアや頚椎症)、交感神経の過緊張などには効果が限られるため、別の治療を併用する必要があります。肩関節の障害には腱板のリリース(エコーガイド下でヒアルロン酸を使用して行います)や神経ブロックを併用する事があります。頸椎や脊髄の病気には点滴、星状神経節ブロックや硬膜外ブロックなどを検討します。胸郭出口症候群や交感神経の過緊張には星状神経節ブロックが有効です。これらの疾患の多くが筋膜由来の痛みを合併しているため、当院では痛みの根源の治療としてメインの神経ブロックを行い、ハイドロリリースを補助的に併用します。

4. ハイドロリリースの費用は?

首や肩、背中の痛みにはQ3.に挙げたような病気が隠れている事が多いため、当院ではできるだけ保険診療内でハイドロリリースをいたします。痛みの根源の治療にハイドロリリースを併用する時は、主となる痛みの治療の費用にハイドロリリースの費用は含まれます。初診で3割負担で、概ね3000円前後、2回め以降で2000円前後くらいです(検査や処方、使用する薬剤により変わります)。1回の診療で神経ブロックは1回分しか保険請求ができないため、基本的に、1回の治療では体の部位は1つに絞って治療させていただきます。複数箇所に一度にハイドロリリースを行う事は患者さまの負担が大きいため、体のあちこちが痛い場合は、日を変えて治療させていただきますのでご承知おきください。

5. ハイドロリリースを1回受けるだけで肩こりや腰痛が治るのでしょうか。

慢性の肩こりや腰痛をお持ちの方は、日常生活で筋肉に負担をかけるお仕事をしておられたり、無理な姿勢などの癖をお持ちの場合が多いので、1回リリースしてもまた戻ってしまう事が良くあります。そのような方は、定期的にリリースを受ける事をお勧めします。ハイドロリリースはストレッチやマッサージなどの理学療法と併用すると効果的です。当院では、担当の理学療法士と医師がタッグを組んで、痛みの原因となっている部位の検索からハイドロリリース、徒手療法を組み合わせて痛みの治療を行っております。

6. ハイドロリリースは痛いのでしょうか。

ハイドロリリースに伴う痛みは①針を刺すときの痛み、②発痛源にヒットしたときの痛み、③薬液を注入した時の痛み、④注射の後の痛みがあります。

①について:細い針を使用して刺すときの痛みが軽くなるように工夫しています。
②について:発痛源は痛覚が過敏になっているので、「当たり!」の時は特に痛みがあります。肩こりが酷いときのマッサージがとても痛いのと似ています。
③・④について:当院では保険診療で筋膜リリースを行う際は生理食塩水に局所麻酔薬を混ぜた薬液を使用します。しかし、生理食塩水のpHは5~6、局所麻酔薬のpHは4~7と酸性なので注入時や注入後に痛みが生じることがあります。本来、ハイドロリリースは筋膜や組織の癒着を剥がして滑走性を改善する事で鎮痛効果を得るので、局所麻酔による麻酔効果は必要ではありません。むしろ、生理食塩水や重炭酸リンゲル、ヒアルロン酸などの方が安全で効果的とされています。しかし、現在は局所麻酔薬を入れずにハイドロリリースを行う事は、残念ながら保険で認められていません。

7. 局所麻酔薬を用いないハイドロリリースは可能ですか。

当院では、ご希望があれば自由診療で局所麻酔薬を用いないハイドロリリースを行っています。注射の痛みを和らげ、より安全に行う事を目的として、生理食塩水を使っています。局所麻酔薬に対するアレルギーをお持ちの方や妊娠中の方にも安心して治療を受けていただく事ができます。肩こりの治療の場合、診察、エコー、薬剤料、技術料込みで1回5500円(税込み)です。

問診や診察の結果、保険を適用した別の治療をお勧めする場合があります。例えば筋膜性の痛みでは無く、肩関節や頸椎の障害による肩こりと判断される場合などです。

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