肘の痛み
肘の痛みの原因は上腕骨外上顆炎や肘部管症候群、変形性肘関節症などの病気が考えられます。原因に応じて最適な治療を行います。
主な症状を記載しますので、当てはまる方は疾患名をクリックしてご覧ください(例外もございます)。
上腕骨外上顆炎(テニス肘) 手首を動かすと肘の外側が痛い
肘部管症候群 肘を曲げると小指と薬指がしびれる、指の力が入りにくい
変形性肘関節症 肘を曲げ伸ばしすると肘が痛い
野球肘 投球で肘が痛い
肘周辺の外傷 転倒して肘が痛くて腫れている
肘内障 子どもの手を引っ張ったり寝返りした後から痛がって手を動かさなくなった
回外筋症候群 前腕を回外(手のひらを上にする動き)したときなどに肘の近くが痛い
投球による尺骨神経障害 投球していると小指と薬指がしびれる
上腕骨外上顆炎(テニス肘)
肘の外側には、手首をそらす伸筋が束になり腱となってくっついています。
テニスや重量物の持ち上げなどで手首を使いすぎることでここに炎症が生じます。
上腕骨外上顆炎の治療法
・サポーター
治療の必須アイテムです。肘の近くにつけるものと、手首につけるタイプがあります。
肘につけるタイプは、手首や指を反らせる筋肉である伸筋群を軽く圧迫して筋肉の緊張を軽減し症状を和らげます。
また、手首を動かすことで、肘の外側の伸筋群付着部にストレスがかかります。症状によりますが、手首をサポーターで保護することで、治癒が早まる傾向が多いです。
・ステロイド注射
症状が強いときにステロイドと局所麻酔薬の混合注射を行います。
当院では例えばケナコルト®(トリアムシノロン)10mg(0.25ml)+1%カルボカイン®(メピバカイン)2mlで行っています。
痛みを取る効果がとても高いのですが、組織損傷の恐れもあるため3か月以上間隔をあける必要があります。
肘部管症候群
肘の内側には、尺骨神経という肘から前腕の小指に伸びる神経があります。机の角に肘の内側をぶつけると指先にひびく場所がありますが、ここに尺骨神経が通っています。ここが、何らかの理由で圧迫を受けると、前腕の小指側や小指がしびれます。症状が進行すると手の筋肉がやせ、手が使いにくくなることもあります。
肘部管症候群の治療法
- 内服薬
- 炎症や神経の興奮を和らげます。
- 安静
- 肘の曲げ伸ばし回数が多い場合や肘を曲げている時間が長いと尺骨神経のダメージが大きいため、深く曲げないように注意して生活します。
- エコー下ハイドロリリース注射
- 尺骨神経の周囲に薬液を入れて、神経周囲の癒着をとります。
- 手術
- 保存療法が奏功しないときに行います。尺骨神経が突っ張らないようにする手術です。神経の上にある膜を切離したり、尺骨神経を突っ張りにくい位置に移動させたり、骨を削って尺骨神経を緩めたりする方法があります。
変形性肘関節症
子供のころなどの肘周辺の骨折や、以前の靭帯損傷、力仕事のやりすぎなどが原因となり、肘関節の軟骨が摩耗した状態です。骨の変形により、肘の可動域(伸ばしたり曲げたりできる角度)が悪化し、動かしたり手をついて体重をかけると肘に痛みを生じます。骨の変形により尺骨神経が圧迫され、上記の肘部管症候群を伴うこともあります。
症状
運動時痛
肘を動かすと痛みが強くなり、安静にすると痛みは軽減します。
可動域制限、ロッキング
肘の屈伸の動きが主に制限され、口に手が届かないなどの日常生活動作に支障がでます。ロッキングとは急に屈伸ともにある角度で肘が動かない固まった状態で、少しでも動かそうとすると激痛を生じます。
肘部管症候群
変形性肘関節症が進むと肘内側を走行する尺骨神経が圧迫されて麻痺することがあり、環指の半分と小指の感覚が鈍くなり、手指の動きが不器用になります。
原因と病態
肘関節の酷使(スポーツ、重労働)、肘関節内骨折や靭帯損傷などの肘関節外傷、関節炎などが原因としてあげられます。
関節軟骨が摩耗して骨が関節面に露出し、過剰な骨の突起(骨棘)ができます。骨棘は出っ張っているため関節の動きを制限します。
さらに進行すると骨棘が折れてかけらとなり、関節内の遊離体となって引っかかり、ロッキングの原因となります。
診断
職業歴、スポーツ外傷の有無、外傷歴、ロッキングのエピソードと前述した症状から、本疾患を疑います。
レントゲン検査では関節の隙間(関節裂隙)が狭くなり、骨棘形成、橈骨頭の肥大、軟骨下骨の硬化像が認められます。骨棘は鉤状突起と肘頭周囲や腕尺関節内側に多くみられます。関節内にいわゆる“ネズミ”(関節内遊離体)がみられることもあります。
予防と治療
肘を曲げて口に手が届くなど、日常生活に支障がなければ、保存療法が行われます。
- 内服薬
○炎症や神経の興奮を和らげます。 - 関節内注射
○自由診療でヒアルロン酸を注射することがあります。 - サポーター・装具による安静
○靭帯のゆるみがある場合にサポーターを装着することで肘が安定し痛みが和らぎます。 - 物理療法
○リハビリ機器を用いて血行を促進させ痛みを和らげます。 - 理学療法
○肘周辺の筋力トレーニング、ストレッチングを行います。 - 手術
○保存療法が奏功せず、日常生活に支障のある場合には、可動域の改善と疼痛の軽減を目的とした手術療法が行われます。骨の出っ張り(骨棘)を削り、固くなった関節の袋(関節包)の切除、遊離体の摘出術が主に行われます。直視下で行う方法と関節鏡視下に行う方法とがあります。術後は可動域を維持するために十分な期間のリハビリが必要です。
肘周辺の外傷
肘頭骨折、上腕骨通顆骨折、橈骨近位部骨折、肘関節脱臼、肘内側側副靭帯損傷、上腕骨顆上骨折(小児)、上腕骨外顆骨折(小児)、上腕骨遠位骨端線離開(小児)、肘内障(小児)などさまざまな外傷性疾患があります。
治療は大きく分けて手術か保存的治療(ギプスなどの手術しない方法)があります。当院では外傷の状態に応じて最適な治療を選択し、手術を要する場合は適切な施設へのご紹介が可能です。
肘内障
症状
子供が手を引っ張られた後などに、痛がって腕を下げたままで動かさなくなります。バンザイや肘を自力で曲げることができなくなります。
原因と病態
肘の靱帯(輪状靭帯)が肘の外側の骨(橈骨頭)からはずれかかることによって起こります。
多くは、5歳以下の子供にみられます。
診断
受傷時の状況と、肘をやや曲げた状態で下げたままにして、痛がって動かそうとしないことから、肘内障を疑います。
痛みが出た経緯で強い外傷がなく、もう一方の肘と比べて明らかな腫れがない場合はそのまま徒手整復することもあります。転倒などある程度の外力がかかった場合は骨折や脱臼との鑑別のために、レントゲンやエコー検査で骨や関節に異常がないことを確認することもあります。
治療
徒手整復を行います。整復されると数十分から1日程度で痛みは治まり、徐々に普段通り腕や手を動かすようになります。整復の後はいつもと同じように腕や手を動かしてかまいません。ただ、手を引っ張られることによって繰り返すこともあるので、注意してください。万が一、もう一方の肘よりも明らかに腫れが出てきた場合は骨折などの可能性がありますので整形外科を受診してください。
回外筋症候群
∧回外筋症候群のエコーガイド下ハイドロリリース動画
腕橈骨筋と回外筋の間に生理食塩水を注入します。