手や指の痛み
手・手指の疾患はたくさんあります。手のしびれ、指のこわばり・違和感、手や指の痛みなど、症状に応じて詳しい問診やレントゲン検査の上、丁寧に診察を行って診断し、適切な治療を提供いたします。
主な症状を記載しますので、当てはまる方は疾患名をクリックしてご覧ください(例外もございます)。
手根管症候群 親指から中指(または薬指)がしびれる、親指の根元の筋肉(母指球筋)がやせてきた
肘部管症候群 小指がしびれる、手の力が入りにくい
ばね指(腱鞘炎) 指を曲げ伸ばしすると痛い、引っかかる
へバーデン結節 指の第1関節が太くなり痛い
ブシャール結節 指の第2関節が太くなり痛い
母指CM関節症 親指の付け根が痛い
突き指
マレット変形(槌指) 突き指した後に第1関節を自力で伸ばせない
手や指の外傷
ガングリオン 手首などにしこりができた
爪周囲炎 爪の周りが赤くなって痛い
グロームス腫瘍 爪や指先に激痛
手根管症候群
親指から中指(場合によっては薬指まで)にかけてしびれや痛みがある場合、手根管症候群の可能性があります。
手首から手のひらにかけて、正中神経が屈筋支帯(横手根靭帯)などによって絞扼される、絞扼性末梢神経障害の一種です。
∧屈筋支帯とその下を通る正中神経
手根管症候群の症状
手首付近の「手根管(しゅこんかん)」のなかで、手を通る神経=正中神経が圧迫されている状態です。主な症状は以下の通りです。
- 親指から薬指の手のひらのしびれ、痛み
- 手を使うとしびれが強くなり、手を振ると痛みが軽くなる
- 手で物をつかみにくい
- 夜間や朝方にしびれで目が覚めることもあります
手根管症候群の原因
- 手の使いすぎ
- 骨折、関節リウマチなどの病気によるもの
- 女性ホルモンの急激な低下
- 40-60歳の女性
- 出産前後の女性
手根管症候群の治療方法
- 手の安静
日常生活の中で手を酷使しないよう安静に保ちます。場合によっては手首の動きを抑えるサポーターも使用することがあります。 - 物理療法
患部を温めて、しびれや痛みを和らげます。 - 薬物療法
神経の修復を促すビタミン剤を投与します。 - 注射
正中神経の癒着をとるためにハイドロリリースや、炎症がある場合はステロイド剤の注射も行うことがあります。 - 上記の治療でも症状が改善しない場合は、手根管の圧迫を取り除く手術(手根管開放術)が必要になります。
∧手根管症候群での正中神経ハイドロリリース動画
尺側から注射しています。注射剤はステロイドと生理食塩水を用いています。
まず深部に注入し正中神経を浮かせてから、浅部に注入し、全周性に正中神経を周囲組織から剥離します。エコーを確認しながら注射することで、正中神経や橈骨動脈・尺骨動脈を損傷することなく、安全に正中神経の周囲の癒着をリリースできます。
肘部管症候群
小指と薬指(特に小指側)のしびれや痛みがある場合、肘部管症候群の可能性があります。
肘部管症候群の原因
肘の内側には、尺骨神経という肘から前腕の小指に伸びる神経があります。机の角に肘の内側をぶつけると指先にひびく場所がありますが、ここに尺骨神経が通っています。変形性肘関節症などによる骨の出っ張りやガングリオンなどの腫瘍、肘の使い過ぎなどが原因で尺骨神経が圧迫を受けると、前腕の小指側や小指がしびれます。症状が進行すると手の筋肉がやせ、手が使いにくくなることもあります。
肘部管症候群の治療法
- 内服薬
- 炎症や神経の興奮を和らげます。
- 安静
- 肘の曲げ伸ばし回数が多い場合や肘を曲げている時間が長いと尺骨神経のダメージが大きいため、深く曲げないように注意して生活します。
- エコー下ハイドロリリース注射
- 尺骨神経の周囲に薬液を入れて、神経周囲の癒着をとります。
- 手術
- 保存療法が奏功しないときに行います。尺骨神経が突っ張らないようにする手術です。神経の上にある膜を切離したり、尺骨神経を突っ張りにくい位置に移動させたり、骨を削って尺骨神経を緩めたりする方法があります。
∧肘内側走査 尺骨神経短軸像
a: ハイドロリリース前 b: ハイドロリリース後 尺骨神経が低エコーの液体で包まれている(ドーナツサイン)
ばね指(屈筋腱狭窄性腱鞘炎)
指がひっかっかる、手のひら側の指の付け根が痛い、などの症状がある場合、ばね指(弾発指)や関節リウマチの可能性があります。
ばね指(弾発指)の症状
ばね指(弾発指)は腱鞘炎の一種で、手の指に動きを伝える腱と、腱を抑えている腱鞘の間に炎症が起きている状態です。主な症状は以下の通りです。
- 指の曲げ伸ばしに引っかかりがある
- 無理に伸ばそうとすると、ばねのように指が伸びる
ばね指(弾発指)になりやすい人
- 手や指をよく使う仕事・スポーツをしている
- 妊娠中、産後、更年期の女性
- 糖尿病・関節リウマチの疾患がある
- 透析を行っている
ばね指(弾発指)の症状
ばね指(弾発指)は腱鞘炎の一種で、手の指に動きを伝える腱と、腱を抑えている腱鞘の間に炎症が起きている状態です。主な症状は以下の通りです。
- 指の曲げ伸ばしに引っかかりがある
- 無理に伸ばそうとすると、ばねのように指が伸びる
ばね指の検査
指を曲げ伸ばしする際の引っかかり、腱鞘の圧痛を確認し診断します。
レントゲンで骨の異常がないことを確認し、
エコーで腱鞘の肥厚や、腱鞘ガングリオンという腱鞘から発生するガングリオンの有無をチェックします。
∧母指腱鞘炎のエコー画像
ばね指の治療
・安静 指にかかる負担をできるだけ控えるようにします。
・ストレッチ
∧ストレッチ① 人差し指、中指・薬指・小指の腱鞘ストレッチ
手首を軽く反らせた状態で、ブロック状のものを指の腹と母指球(親指の付け根)で挟み、指の付け根(屈筋腱)を縮めるように力を入れて押し合う。
∧ストレッチ② 指のストレッチ
軽く手首を反らせた状態で、指を伸ばし、反対側の手でさらに反らす。
∧ストレッチ③ 母指の腱鞘ストレッチ
手関節軽度背屈位にてMP 関節最大屈曲位、
IP関節伸展位または軽度屈曲位にて屈曲させた肢位を保持するように抵抗をかける
・腱鞘内注射 腱鞘炎を起こしている腱鞘にステロイド(トリアムシノロン)+局所麻酔薬を注射します。投与するステロイド薬の量が多かったり、注射の回数が多すぎると屈筋腱や腱鞘の断裂、感染などの恐れがあります。
・手術 注射をしても再発を繰り返す、短期間で再発する場合、1回で完治させたい場合に腱鞘切開手術を行います。
へバーデン結節・ブシャール結節
指の第1関節(DIP関節)の変形や痛みがある場合、へバーデン結節の可能性があります。
第2関節(PIP関節)の変形や痛みがある場合は、ブシャール結節の可能性があります。
へバーデン結節やブシャール結節は、いずれも指の関節の軟骨がすり減った状態(変形性関節症)です。
変形が進むと痛みだけでなく関節の不安定性を生じることもあります。
遺伝、ホルモン減少、繰り返す関節に対するストレスにより発症します。
変形には長期を要しますが一時的に痛みが強くなることがあります。
関節リウマチでは強い関節炎による比較的柔らかい腫れがありますが、へバーデン結節やブシャール結節のような変形性関節症は軽度の炎症で変形が強く、触ると硬い印象です。また、関節リウマチでは第1関節には関節炎を起こすことはまれとされています。
へバーデン結節やブシャール結節はすべての指に起こり得ます。痛みは一時的なことが多く、変形が進んで関節の動きが悪くなると痛みが軽減します。
へバーデン結節の症状
へバーデン結節は手の指の第一関節が変形してしまう病気です。主な症状は以下の通りです。
- 赤く腫れる、痛みがある
- 曲がってしまう
- 動かしにくい
- 水ぶくれのようなできもの(粘液嚢腫・ミューカスシスト)ができる
へバーデン結節になりやすい人
- 手や指をよく使う
- 40歳以上の女性
へバーデン結節の治療法
- 手の安静 罹患した関節の使い過ぎを抑え、安定性を高めるためにテーピングを実際に行って指導いたします。
- 抗炎症薬
- エクオール(自費)
- 漢方薬
- 痛みや不安定性が強く、上記の治療で効果がない場合は、関節固定術などの手術を行うことがあります。
母指CM関節症
親指の付け根に痛みがある場合、母指CM関節症の可能性があります。
母指CM関節症の症状
親指(母指)の付け根にある関節(CM関節)の軟骨がすり減り、炎症が起きている状態です。主な症状は以下の通りです。
- 親指の付け根が痛い
- 特に、ひねる動作で痛みがある
- 親指の付け根の骨が出っ張っている
母指CM関節症の原因
- 加齢による変形
- 親指の関節の使い過ぎ
- 過去の骨折や脱臼
母指CM関節症の治療法
突き指
「突き指」は、その名の通りボールや物で指を突いて、指先に大きな力が加わることによって起こる指のけがの総称として広く一般的に用いられています。指の腫れや痛み、動かしにくさなどの症状がありますが、放っておけばそのうち治ると軽く考えられがちです。しかし「突き指」には、骨折や脱臼、腱や靭帯の断裂などが含まれており(次項マレット変形参照)、中にはすぐに手術が必要なこともあります。早期に正しく診断されないと、適切な治療の時期を逃すこともあります。「突き指」を軽く考えず、整形外科を受診し、専門医の診察とレントゲン撮影や超音波検査などによる正しい診断と適切な治療を受けることをお勧めします。
マレット変形(槌指)
症状
第1関節が曲がったままで痛みや腫れがあり、自動伸展は不能で自分で伸ばそうと思っても伸びません。
しかし、他動伸展は可能で手伝って伸ばすと伸びます。
突き指の一種でボールなどが指先に当ったときなどに起こります。
病態
2つのタイプがあります。
1つは指を伸ばす伸筋腱が切れたために生じるもので、腱性マレット指(腱性マレットフィンガー)と言います。
もう1つは、第1関節の関節内の骨折が生じ、伸筋腱がついている骨が関節内骨折を起こしてずれた状態になったもので、骨性マレット指(骨性マレットフィンガー)と呼びます。
診断
指の形状が第1関節で曲がっていれば、マレット変形といえますが、腱性マレット変形か骨性マレット変形かの診断が重要になります。
マレット変形を診断するには、X線(レントゲン)撮影が重要です。
骨折の有無で治療法が変わるからです。
∧骨性マレット
治療
病態や受傷後の経過期間によって治療法は異なります。
腱性マレット指では一般に装具などの保存的療法が行われます。骨折を伴う骨性マレット指の場合には、手術を必要とすることがあります。詳しくは整形外科専門医にご相談ください。
手や指の外傷
手は外傷の起こりやすい部位です。
切り傷、刺し傷、神経損傷、伸筋腱損傷、屈筋腱損傷、血管損傷などの軟部組織外傷が多く発生します。
多くの小さな骨や関節で構成されているため、骨折や脱臼も多いです。
シーネ(添え木)などの保存的治療か手術のいずれかで治療することになりますが、治療には可動域訓練や筋力訓練のリハビリテーションがほぼ必須と言えます。手術が必要と判断される重症の場合は手外科専門医による治療や専門の作業療法士によるリハビリを要することも多くなりますが、当院では適切な施設へのご紹介が可能です。