漢方
漢方とは
漢方は古代中国で生まれ、6世紀に中国から日本へと伝わり、その後日本で独自の発展を遂げ現代まで受け継がれてきた伝承医学で、約500年間日本の医療を支えてきました。現代では漢方の良さが広く再認識されており、西洋医学との融和を目指して漢方医学が見直されています。
漢方薬も科学的な解明がなされつつあり、西洋医学で対応できない部分を埋めることや西洋医学との併用により、特に高齢化社会における医療への貢献が期待されています。
西洋薬は人工的に化学合成された物質で、その多くは一つの成分で構成されており、一つの疾患や一つの症状に対して強い作用を発揮します。一方で漢方薬は、自然界に存在する植物や動物、鉱物のなかで薬効を持つとされている生薬(しょうやく:植物の葉・根・茎・果実など)を複数組み合わせたもので、いろいろな症状に穏やかな作用を示します。
人が持っている本来の健全な身体機能を取り戻し、自然治癒力を高め、体の状態を整える効果がある治療薬といえます。体の持つ本来の機能を正常に戻して、臓器を活発化させ、免疫力を高めていくことで、病気になりにくい体質に改善していくというものです。気になる自覚症状だけでなく、体質を判断し、体質改善を促す薬剤を処方することにより便秘やからだの冷え、不眠なども同時に改善されることがあります。
漢方薬の保険診療
1976年に漢方薬が保険診療として認められ、以後、煎じ薬を濃縮・乾燥して顆粒状にした「漢方エキス製剤」が手軽に使えるようになりました。エキス製剤は品質が安定しており、普通の粉薬のように簡単に飲めます。当院で処方する漢方薬につきましては、健康保険が適用(1割~3割負担)されるものを使用していますので、お気軽にご相談ください。
整形外科と漢方
整形外科の診療においては、個々の症状や所見をもとに、X線やエコー、MRIなどの画像診断に重点がおかれる傾向にあります。通常はそれらの検査で診断がつくことがほとんどですが、なかには腰痛やしびれなどの症状があっても「検査上は特に異常がない」と言われ、痛み止めだけ出されてもちっとも良くならないと、色々な医療機関を受診される方や、様々な薬を試して治療を行ってみたものの、薬の副作用が出てしまったり、症状が改善しない方がいらっしゃいます。手術の適応疾患であれば、手術を受けることで改善が期待できますが、その適応がない場合や自覚症状ほど検査所見に異常がない場合には治療に行き詰まってしまいます。そのような時に漢方薬を用いた治療がうまくいくことがあります。
当院では通常通り、専門医師による検査や治療を受けていただき、薬では効果が乏しかったり、副作用が強い場合などで漢方薬を有効活用しています。例えば鎮痛剤についてはNSAID(非ステロイド性抗炎症薬:ロキソニンなど)は慢性腎臓病や消化性潰瘍の既往がある方には使えないなど制約があり、そういった方に漢方薬は有用です。また、過去に処方されていた鎮痛剤が無効で服薬に抵抗がある方、妊娠・授乳中で服薬をためらう女性などにも漢方は心強い選択肢です。
漢方薬が有効な整形外科の疾患や症状
当院ではご希望に応じて、整形外科領域を中心に、さまざまな漢方薬を処方いたします。漢方治療の対象になる症状や疾患はたくさんありますが、整形外科の分野では特に次のような症状の病気に効果的です。
肩こり、腰痛、足のしびれ、神経痛(坐骨神経痛など)、首の痛み、頭痛、五十肩、むち打ち症、四肢の痛み、関節痛、変形性膝関節症、打撲、捻挫、こむら返り(足がつる)、関節リウマチ、筋肉痛
例えば、「治打撲一方(ちだぼくいっぽう)」という打撲や捻挫の痛みに使われる漢方薬があります。これは、胃や腎臓が悪くNSAIDが使えない方にも安全に使用していただけます。お悩みの方は、一度漢方薬を試してみてはいかがでしょうか?
漢方薬の副作用
安全な部類の薬ですが、副作用が全くないわけではありません。その症状は薬に含まれる生薬によってさまざまで、一番多いのは下痢や胃部不快といった消化器症状ですが、足のむくみや血圧上昇(甘草の摂り過ぎは血圧を高くする)を起こす低カリウム血症、肝機能障害、間質性肺炎、湿疹、動悸などの症状が現れた場合には服用の回数を減らして様子を見るか中止して、医師にご相談ください。当院では最初に血液検査などで患者さまの状態を確認した上で治療を始め、服薬中も定期的に血液検査や咳やむくみなどの副作用のチェックをいたします。例えば芍薬甘草湯に関しては、甘草の副作用(血圧が上がる)の点から必要以上に長期には使わないようにしています。
他の薬と併用できます
漢方薬のみにこだわる必要はなく、他の薬(西洋薬)と漢方薬の両方で治療することはよくあります。できれば飲む時間を30分~60分あけて内服してください。実際、もともと処方されているお薬を服用し続けながら、漢方薬の併用でさらなる効果を期待したり、また西洋薬の量を減らすことを目標として漢方薬を併用することが多いです。なお、漢方薬に含まれる生薬によっては重複内服で危険なこともありますので他院より既に漢方薬が処方されている方は、その旨を申し出てください。また、生薬の有効成分には、一部の方には使いづらかったり、使ってはいけない成分を含有している場合があります。例えば葛根湯は風邪にきく漢方薬として有名ですが、葛根湯に含まれる麻黄という生薬には「エフェドリン」という成分が含有されており、心臓の悪い方には慎重に使う必要があり、またドーピング検査が行われるようなスポーツをされている方には使えません。
漢方薬だけを数種類組み合わせる方法、西洋医学の治療薬と併用する方法等、同じ症状でも、患者さまによって最適な方法は異なって来ますし、同じ患者さまでも体調の変化により処方が変わることがあります。
漢方薬の飲み方
漢方薬は食事の前30分、または食事と食事の間(食間つまり食後2時間)の空腹時の内服が一般的です。漢方薬は空腹時のほうがよく吸収されるからです。また、一般的に西洋薬は食後服用が多いため、服用する時間をずらすことにより、西洋薬と漢方薬がお互いに影響しないようにします。しかし仕事の都合で食前の内服ができない時や、内服でお腹の具合が悪くなる場合は、食後の内服でもかまいません。
なお、地黄を含む漢方薬(八味地黄丸など)はお腹がもたれたり、腹痛が起こることがあるので、特に食後の服用を薦めております。また、便秘に対応する漢方薬(下剤)は、空腹時が効果的ですので、就寝前に内服することをお勧めします。
通常の「粉薬」のように、顆粒のまま水やぬるま湯で飲んでも構いませんし、市販されているゼリーやオブラートに包んだり、100~150ccのお湯に溶かして飲んでも問題ありません。お茶やジュース、牛乳などとは一緒に服用しないで下さい。
「漢方薬は体質改善の薬だから、何ヶ月も飲まなければ効果はわからない」と思われがちですが、長期間飲まなくても、20~30分位で効果が出る漢方薬もあります。通常は1~2週間飲み続けたら利き目を実感できます。
整形外科でよく用いられる漢方薬〔ツムラ(株)番号順〕
※「気・血・水」は、不調の原因を探るためのものさしです。
漢方では、私たちの体は「気・血・水」の3つの要素が体内をうまく巡ることによって、健康が維持されていて、これらが不足したり、滞ったり、偏ったりしたときに、不調や病気、障害が起きてくると考えられています。
1 葛根湯(かっこんとう)
風邪でお馴染みの漢方薬ですが、身体を温める作用や、血液循環改善作用があることから肩こりにも使用されます。
7 八味地黄丸(はちみじおうがん)
高齢者に用いられることが多い薬で、加齢による種々の症状を「腎虚」と考え「補腎剤」として使います。体力がなく、疲労や倦怠感が激しく、寒がりで特に手足や腰から下が冷え、夜間頻尿の方、のどが渇く人によく用いられます。冷えに伴う痛みを取るのによく用いられる「附子剤」の一つで、体を温めることで、足腰などの慢性的な痛みやしびれの改善をはかります。加齢による退行変性(変形性脊椎症、熱感や水腫のない変形性膝関節症)、下肢痛、腰痛、しびれ、頻尿・夜間頻尿、排尿困難、残尿感、軽い尿漏れ、かすみ目など、老化にともなう症状に用いられます。高血圧にともなう症状(肩こり、頭重、耳鳴り)などにも使われています。
8 大柴胡湯(だいさいことう)
体格がよく、体力もあって、便秘がちで、わき腹からみぞおちの間が張って苦しい場合に処方されます。高血圧や肥満をともなう肩こりや頭痛、便秘のほか、胃炎、便秘、神経症、肥満症などの治療に用いられます。
17 五苓散(ごれいさん)
むくみをはじめ、頭痛、めまい、下痢などは、漢方では「気血水(きけつすい)」※の「水」が滞った「水滞」を原因とする症状と考えます。水分代謝がうまくいかずに、体のあちこちに偏在(へんざい)して異常が現れるのです。「五苓散」は「水滞」を改善する代表的な処方で、口の渇きや尿量の減少やめまいなどのある方の浮腫(むくみ)、頭痛、下痢、めまい、吐き気、急性胃腸炎、二日酔いなどに使用されます。子どもの下痢、妊婦のむくみなどに使われることもあります。整形外科では雨天時の痛みの増悪、神経浮腫によるしびれ(椎間板ヘルニアや、手根管症候群・肘部管症候群などの絞扼性末梢神経障害)、下肢浮腫、手指こわばり、滑膜炎、腱鞘炎などに有効です。
18 桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)
冷え症で体力のない方の、変形性膝関節症、へバーデン結節などの関節痛、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアに伴う坐骨神経痛、頚椎椎間板ヘルニアに伴う上肢神経痛、帯状疱疹後神経痛など様々な神経痛に効果があります。天候の悪化や季節の変わり目に痛みが悪化するような方には特に有効と言われています。汗は出るのに尿の出が悪いような場合に適する薬です。非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)で、治療の継続が難しい場合にこの薬を用いることもあります。また、痛みの改善を目的に関節リウマチの腫れや痛みに対して用いられることがあります。
20 防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)
疲れやすく、汗をかきやすい傾向がある方に用いられます。肥満に伴う関節の腫れや痛み、むくみ、多汗症、肥満症(水ぶとり)使用される漢方薬です。変形性膝関節症における膝の水を減らし、膝痛を軽減させる作用があります。
23 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
“産婦人科の三大漢方薬”の一つで、やせて体力のない人の血液の巡りをよくして、体を温める漢方薬です。月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後の不調(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)などに使われます。立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え、しもやけ、しみ、耳鳴りなどの改善にも使われます。
24 加味逍遙散(かみしょうようさん)
女性の不定愁訴に用いられる、産婦人科の三大漢方薬のひとつで、月経異常や更年期障害など、女性特有の症状によく用いられます。体力があまりない人の肩こり、めまい、頭痛、のぼせや発汗、イライラ、不安など、多様な心身の不調に広く用いられます。ストレスによる頭痛やめまい、不安、不眠などの心身の不調にも使われます。
25 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
血行障害を改善する代表的な漢方薬(駆瘀血剤)で、産婦人科の三大漢方薬のひとつです。
典型的には、比較的体力があり、赤ら顔、のぼせやすいのに足が冷え、下腹部が張る感じがする人に向く薬で、月経異常、更年期障害、頭痛、めまい、肩こり、滑膜炎、腱鞘炎、神経のうっ血によるしびれ(手根管症候群、肘部管症候群、腰部脊柱管狭窄症など)、上腕骨外上顆炎などにもよく処方されます。また、昔からにきびや、しみをはじめ、湿疹・皮膚炎、しもやけなど、皮膚のトラブルにも用いられています。
28 越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)
炎症によって関節が熱をもった感じで腫れていたり、関節液がたまっているような場合、例えば関節の腫れや痛み、関節炎などに用いられます。
38 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
手足の冷え性で、寒い日や雨の日に悪化する腰痛、下肢痛、頭痛に効果があります。
41 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
元気がなく胃腸の働きが衰えて疲れやすい方に用いられます(補気剤)。慢性疼痛、虚弱体質、疲労倦怠、食欲不振、ねあせに効果があります。
52 薏苡仁湯(よくいにんとう)
体にたまった水分をさばき、痛みを取る作用があり、腫れて熱をもっているような四肢の関節痛や筋肉痛、神経痛などに用いられます。関節リウマチの関節痛、筋肉痛などにも使われます。
53 疎経活血湯(そけいかっけつとう)
冷えている部分を温めたり、余分な水分とり除くことで、痛み、しびれを改善します。腰から下肢にかけての冷えにより悪化する筋肉痛、関節痛、神経痛、腰痛、など慢性的な痛みに用いられます。
63 五積散(ごしゃくさん)
寒冷や湿気による慢性の神経痛、関節痛、月経痛に用いられます。
68 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
芍薬と甘草が配合されており、それぞれ鎮痙・鎮静作用があります。急激に起こった筋痙攣を弛緩させる漢方薬、『こむら返り』に有効です。急性腰痛・下肢痛・月経痛・腹痛・胃痙攣などの痛みにも使用されます。こむら返りの第一選択薬で即効性があり、頓服が基本です。長期間投与で甘草に含まれるグリチルリチンにより偽性アルドステロン症を生じ、浮腫、低カリウム血症、高血圧などの副作用を起こすことがあります。
78 麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)
配合生薬に麻黄が含まれている麻黄剤の一つで、浮腫消退、鎮痙などの作用により、痺れ痛みを改善する方剤です。体力が中くらいの人の関節痛、神経痛、筋肉痛、いぼ、手足の荒れ(湿疹や皮膚炎)などに用いられます。
83 抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
小児の夜泣きや認知症の周辺症状に用いられます。
ストレスや精神症状を伴う難治性の疼痛に効果があります。
87 六味丸(ろくみがん)
7八味地黄丸から温める作用のある2つの生薬を除いたもので、ほてりのある腰痛に用います。
88 二朮湯(にじゅつとう)
肩や上腕の痛みのある肩関節周囲炎(五十肩・四十肩)に用いられます。
89 治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)
血流改善作用、抗炎症作用があり、打撲や捻挫による腫れや痛みなどに用いられます。
100 大建中湯(だいけんちゅうとう)
腹部を温める作用のある生薬、消化器機能を改善する生薬が配合されております。冷たいものの食べ過ぎ・飲みすぎ、腹部膨満、腹痛、便秘等に用いられます。
107 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
おもに高齢者の手足腰の冷えや痛み、変形性膝関節症(熱感や水腫がないもの)などに用いられます。水の滞りや冷えを改善する作用のある生薬が配合されており、排尿困難、頻尿、むくみ、老人のかすみ目などにも使用されます。7八味地黄丸に、血や水の流れを改善する2つの生薬を加えたものです。
108 人参養栄湯(にんじんようえいとう)
病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、冷え、貧血に用いられます。病後・術後・産後や慢性疾患による衰弱、高齢者のフレイルに効果があります。
114 柴苓湯(さいれいとう)
抗炎症作用、水分代謝調節作用のある生薬が配合されております。炎症があり浮腫んでいる方に用いられます。ステロイドのような作用があります。
症状・疾患別の漢方薬
骨折・捻挫・筋挫傷
急性期は内出血・浮腫に伴う組織の炎症反応=「瘀血(おけつ)」(血の滞り)が主な病態であると考え、駆瘀血剤(くおけつざい)の89治打撲一方に、利水剤の17五苓散を併用することが多いです。
急性腰痛症
いわゆる「ぎっくり腰」。腰痛の急性期には68芍薬甘草湯を高容量で短期間使用します。芍薬甘草湯には平滑筋も横紋筋も同時に抑える作用があると言われており、よく知られている「こむら返り」だけではなく、頚部痛や腰痛にも効果があります。この場合は、NSAIDsを必要に応じて服用してもらっています。
高齢者の椎体骨折による急性腰痛に対しては、骨折と同じ考えで駆瘀血剤の89治打撲一方を使用します。痛みによる体動の減少で便秘傾向になりがちなので西洋薬の緩下剤を併用することも多いです。漢方自体を61桃核承気湯に変更することもあります。NSAIDは腎機能障害や消化性潰瘍リスクを考慮し、処方しても短期間にとどめます。
術後の浮腫・炎症
内出血(瘀血)・浮腫(水滞)に対し、41補中益気湯+89治打撲一方を使います。
肩こり(頸肩腕症候群)
いわゆる肩こり。肩こりの原因となる姿勢や生活習慣を聞いたのちに、ストレッチ指導や生活習慣の改善、場合によりハイドロリリースも行い、それでも軽快しない場合は1葛根湯を併用としています。78麻杏薏甘湯も著効するときがあります。上肢のしびれを伴う患者さんには18桂枝加朮附湯を使うこともあります。
精神症状の関与が疑われる方には10柴胡桂枝湯、11柴胡桂枝乾姜湯を用いることもあります。
頸椎捻挫
寝違えや交通事故による頚部痛である頸椎捻挫の急性期には、外傷なので89治打撲一方を処方します。外傷による瘀血に対して25桂枝茯苓丸を処方することもあります。急性期の後は症状によって処方分けを行っています。たとえば、「入浴して(温めると)調子が良くなりますか?」という問いに対し、「温めると良いようです」という答えがあれば、38当帰四逆加呉茱萸生姜湯などの温める薬を使うことになると言う具合です。
雨天時に症状が悪化したり、めまいを伴う場合は補気剤の41補中益気湯と利水剤の17五苓散を使うと改善することが多いです。
体力はあるが痛みが改善しないことに不満でイライラする方には24加味逍遙散を、イライラしているが内向的で顔色が悪く体力がないタイプには137加味帰脾湯を用います。
肩関節周囲炎
肩関節周囲炎には疾患の背景にインピンジメント症候群、腱板損傷、腱板炎、関節唇損傷等の考慮鑑別すべき病態があり、診断をつけるのはもちろん大事なのですが、「痛み」に対しては88二朮湯を処方します。肩関節腔や肩峰下滑液包へのヒアルロン酸注射や局所麻酔薬+ステロイド注射やリハビリを行った上で、補助的役割として処方しています。第2選択としては78麻杏薏甘湯を用います。駆瘀血剤として25桂枝茯苓丸を使うこともあります。
骨折・捻挫の後遺症
便秘傾向のある外傷後の陳旧例には89治打撲一方、NSAIDsが使いにくい症例には25桂枝茯苓丸、表に出るイライラ、不満がある方には54抑肝散、非論理的な訴え、多愁訴、症状や部位が移り変わる方には24加味逍遙散、几帳面・予期不安のある方には16半夏厚朴湯が使われます。
腰痛
腰痛では18桂枝加朮附湯は麻黄を含まないので副反応のリスクが低く、NSAIDsが使いにくい高齢患者さまの(冷え症、胃腸障害、寒冷刺激で痛みが増すような)腰痛や慢性疼痛、下肢神経痛、四肢関節痛にと幅広く用いることができる非常に使い勝手の良い薬剤です。長くNSAIDsを服薬している症例、服薬数が多い症例には一度は処方しておきたい薬剤と考えています。 傍脊柱筋の緊張を伴う腰痛の悪化には68芍薬甘草湯も使われます。寒冷で痛みが増す腰痛には38当帰四逆加呉茱萸生姜湯を用います。
下肢痛、下肢のしびれ
整形外科外来でよく聞く「下肢痛、しびれ」。西洋医学的には腰部脊柱管狭窄症などの物理的な神経圧迫、動脈硬化による血流障害、運動障害・排尿障害・代謝低下による浮腫など複数の原因が絡んでいることが少なくありません。血管拡張作用のある薬剤(プロスタンディン、パルクス、リプル等)の点滴で症状が軽快する症例が多数あることから、25桂枝茯苓丸や23当帰芍薬散はこれらの「瘀血」(気血水の血(けつ)の巡りが悪くなり、滞った状態)を主とした症例には、処方してみる価値はあると考えています。
補腎剤(7八味地黄丸、107牛車腎気丸)は高齢者に合併する多種多様な症状や疾患を漢方1剤でカバーするもので、下肢症状が前面に出た多彩な愁訴を持つ患者さんに処方することが多いです。
変形性膝関節症
変形性膝関節症の軽症~中等症例では20防己黄耆湯などを他の鎮痛薬やヒアルロン酸注射、物理療法や理学療法と併用することが多いです。局所の腫脹・熱感、関節拘縮のある方には52薏苡仁湯、冷え性で体力のない方には18桂枝加朮附湯も用います。重症例に関しては漢方薬の効果は期待しにくく、どのタイミングで人工関節や骨切り術等の手術に踏み切るか、もしくは保存的加療で行くのかを患者さまの生活スタイルと併せて、よく話し合うことが大切であると実感しています。
慢性疼痛治療薬の副作用対策として
弱オピオイド製剤、SNRI、神経障害性疼痛治療剤は現在では慢性疼痛の治療には不可欠の薬剤です。しかし患者さまによっては悪心・吐き気、めまい、便秘といった副作用が出現することがあります。これらの副作用に対して、漢方薬が有効な場合があります。
悪心・吐き気
・14半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう 神経性胃炎の病名で処方可能)
・43六君子湯(りっくんしとう)
めまい
・19苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう めまい症の病名で処方可能)
・17五苓散(ごれいさん むくみのある方に)
・37半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
口渇・口乾
・57温清飲(うんせいいん)
・106温経湯(うんけいとう)
・29麦門冬湯(ばくもんどうとう)
・34白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)◎
その他の症状
便秘
84 大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)
100 大建中湯(だいけんちゅうとう)
頭痛
31 呉茱萸湯(ごしゅゆとう)
体力がなく冷え症の人の体を温めて頭痛を治す薬です。繰り返し起こる片頭痛に有効な薬として知られます。
片頭痛は発作性のズキンズキンとした強い痛みが特徴で、しばしば吐き気をともないます。片頭痛の漢方治療では代表的な薬で、うなじや肩のこりをともなうような緊張型頭痛や、頭痛に伴う嘔吐(おうと)などにも使われます。西洋薬の鎮痛薬で、胃腸障害などの副作用で治療の継続がむずかしい場合に使用されることもあります。苦い漢方薬です。
17 五苓散(ごれいさん)
気圧の低下による頭痛や片頭痛に効果があります。水分が溜まって浮腫んでいる方に用いられます。
肥満
8 大柴胡湯(だいさいことう)
堅肥りタイプに
62 防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
脂肪太りタイプに