痛風・高尿酸血症
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痛風とは、血中尿酸値が高い状態が継続(高尿酸血症)することで発症する病気です。尿酸が体内に蓄積し結晶化して発作的な関節炎(痛風発作)が起き、大人でも2~3日は歩けなくなるほどの激痛を伴うことが多いです。特に足の親指の付け根が赤く腫れて激痛が走るのが特徴です。風が吹いても痛いということで、「痛風」と呼ばれています。足の親指の付け根以外に、足関節、足の甲、アキレス腱のつけ根、膝関節、手関節にも激痛発作が起こることがあります。手や足の指、耳にコブ(痛風結節)が出来ることもあります。また、痛風と同様にいきなり激痛が起こる尿路結石にもなりやすくなります。生活習慣病(肥満や高血圧など)を合併することも少なくありません。痛風発作を何度か経験している人は、発作の前兆(違和感)を感じることがあります。また、痛風の患者さんは、ほとんどが男性です。男性の方は特に注意が必要です。
当院で患者さまにお渡ししているパンフレットをご紹介します。
高尿酸血症にご用心
尿酸値気にしてますか?
尿酸値が気になるあなたへ
原因と病態
血液中の尿酸値が上昇(高尿酸血症)し飽和溶解度を超えると、関節内に尿酸塩結晶が生じます。この結晶を白血球が処理する際、痛風発作(急性関節炎)が発症します。高尿酸血症状態が続くと尿酸結石が腎臓に生じ、腎機能が悪化して腎不全となります。
高尿酸血症の原因は様々です。腎臓から尿酸を排出する機能が低下したり、「プリン体」を過剰に摂取する食生活や、暴飲・暴食、肥満、激しい運動などが原因になると考えられています。降圧利尿剤などの薬物も原因になることがあります。アルコールは体内で尿酸がつくられるのを促進し、尿酸の濃度を上げてしまうため痛風の原因となります。
厚労省「アルコールと痛風」
診断
確実な痛風の診断は、発作中の関節の中に尿酸の結晶があることを証明することです。通常は、血中尿酸値が高く痛風特有の臨床症状があれば、診断は可能です。
合併症
痛風は一度発症すると完治が難しく、放置すると再発を繰り返すだけでなく、さらに怖いのは高血圧・腎障害・尿路結石・高脂血症・糖尿病などの合併症を引き起こすリスクがあります。尿酸値が高いと生活習慣病になることが多く、心筋梗塞や脳梗塞の危険度も高いと考えられています。痛いだけでなく、死亡率の高い病気を引き起こす可能性を秘めた状態というわけです。
予防
- 規則正しい生活
- バランスの良い食生活
- ストレスをためない生活
- 定期的な健康診断で尿酸値をチェック
以上のことに気をつけ、予防を心がけましょう。
治療
痛風の痛み(発作時)の治療には、消炎鎮痛薬を用います。局所麻酔剤入ステロイド関節内注入も効果的です。前兆症状や発作の鎮静化にはコルヒチンも有効です。
痛風発作が治まってから、今後の痛風発作の発症予防や合併症予防のため、高尿酸血症の治療すなわち尿酸値をコントロールする薬を長期間服用します。尿酸は絶えず身体の中で作られていますので、菜食を主とした食生活に切り替え、尿酸が体内で過剰に作られないようにするか、内服薬で血中尿酸値をコントロールしなければなりません。そのためには、定期的な血液検査(尿酸値と腎機能検査等)が必要です。食事の改善なども指導いたします。痛風の発作が起こらないからといって、薬を勝手にやめてはいけません。そのために再発作を起こす方が非常に多い病気です。
高尿酸血症について
尿酸とは、プリン体という成分が肝臓で分解されて生じる老廃物です。プリン体と聞くと、身体に良くないので食べ過ぎてはいけないイメージがありますが、実際は私たちの体内でも生成されており、細胞の代謝、また増殖などを助ける重要な役目を担っています。体内で利用しきれなかったプリン体は、尿酸となって体外に排出されます。しかし、尿酸は一定量までは血液に溶けますが、それ以上になると溶けきれなくなり、尿酸値が高くなります。尿酸値が7.0mg/dl以上になると、尿酸値が高い状態「高尿酸血症」と診断されます。
高尿酸血症になっても初期段階では自覚症状はまったくありませんが、それは嵐の前の静けさにすぎません。高尿酸血症になったからといって、すぐに痛風になるわけではありませんが、尿酸値が6.0mg/dlを超えると、体の中では尿酸が蓄積する方向に向かいます。7.0mg/dlを超えた高尿酸血症の状態が続けば、やがて尿酸は結晶化し、関節など身体の至るところに沈着して、痛風発作をはじめ様々な病気を引き起こす原因になります。
厚労省「高尿酸血症」
尿酸値(mg/dl) |
危険度 |
発作リスク |
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9.0 |
とても危険 |
60%以上 |
体内に尿酸がたまっていく尿酸値 |
8.0 |
約30% |
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7.0 |
危険 |
約10% |
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6.0 |
やや危険 |
|
|
5.0 |
安全 |
尿酸の結晶が溶け出す尿酸値 |
|
4.0 |
尿酸上昇の原因
- プリン体の多い食事
- 飲酒
- 激しい運動・脱水
- 肥満
高尿酸血症の治療
高尿酸血症治療のアルゴリズム
食事
高尿酸血症になりやすい人の食生活
□ 早食い・大食い
□ 天ぷらや揚げ物など脂っこいものが好き
□ 外食やコンビニ食が多い
□ 朝食は食べない
□ つい間食をしてしまう
□ 野菜が苦手
□ お酒が好きで毎晩飲む
当てはまるものがある方は痛風に要注意!
『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン』ではプリン体の摂取を1日400mg以下を目安となっています。以下のことに注意して食事をコントロールしましょう。
①プリン体を多く含む食品を控えましょう
体内では一日に700mgの尿酸が産生されます。これに対して、食事からのプリン体摂取は尿酸にして300~400mgですので、食事の制限よりも体内での生成を抑えるほうが大切です。しかし、尿酸は水に溶けにくく、排泄されにくいことから、食事で摂取するプリン体を制限することも必要となります。
食品中のプリン体が分解された最終産物が尿酸になりますので、尿酸値が高い人はプリン体を多く含む食品を控える必要があります。
プリン体を多く含む食品
あん肝、レバー、モツ、白子、牛肉ヒレ、ロース、えび、かにみそなど、主に内臓、肉類、魚介類など動物性食品に多く含まれています。プリン体は水溶性なため料理をするときには水中に溶け出しますので、肉や魚は茹で汁を捨てることにより、プリン体を減らせます。煮干し、かつお節、干ししいたけを使った出し汁にもプリン体が溶け出しますので出し汁を使った料理にも注意が必要です。また、豚骨、鶏がらを使用したラーメンやスープ、肉を焼いたあとの肉汁など、旨味のする汁の部分にはプリン体は多く含まれていますので控えましょう。
食品中のプリン体含有量(100gあたり)の多い食材を紹介します。食事のメニューを決める際の参考にしてみてください。
②体内での尿酸の産生を抑え、排泄を良くしましょう
- アルコールを控えましょう
アルコールは肝臓での尿酸産生を増加させ、アルコールが体内で分解される時に作られるアセトアルデヒドは腎臓からの尿酸排泄を阻害します。また利尿作用もあるため、体内の水分量が減少し尿酸値が上昇しやすくなります。またアルコールの飲みすぎは、カロリー過剰につながり肥満の原因になります。したがって高尿酸血症の人はアルコールの種類に関係なく飲酒の制限が必要になります。ビールは1缶350mlあたりのプリン体含有量は12~25mgで飲み過ぎなければ厳しく制限する量ではありませんが、ビールは他のアルコール飲料と比べてプリン体が多くカロリーも高いのでできれば控えましょう。ビールをハイボールに変えると、大幅にプリン体が下がりますが、アルコール度数が高くなるにつれ、尿酸値は上がりやすくなります。アルコール飲料の一日に取る目安は、ビールなら小1本程度、日本酒なら一合弱、ウイスキーならシングル2杯程度、ワインなら200CCのいずれかに抑えましょう。焼酎などは、薄く割って、飲みすぎないようにしましょう。休肝日を設けることも重要です。「低プリン体」、「プリン体ゼロ」のアルコール商品を見かけますが、アルコールそのものに尿酸値を上げる働きがあることを覚えておきましょう。
- 果糖を控えましょう
清涼飲料水などの甘い飲み物や果物に多く含まれている果糖は体内で分解される際、尿酸産生を促進させるため摂取には注意が必要です。ブドウ糖と果糖が組み合わさった白砂糖も過剰摂取は控えましょう。
- 脂肪を控えましょう
高カロリーであることと、尿酸排泄を低下させることから控えることが大切です。
③水分を十分にとりましょう
水分を多く取り、尿量を多くすることで尿酸の排泄を良くし、尿中の尿酸を薄めるようにしましょう。1日に1.5~2ℓくらいを目安に、積極的に水分を摂りましょう。水分といっても、アルコール飲料、ジュース、缶コーヒー、清涼飲料水などは高エネルギーになりますので控え、水、ウーロン茶、お茶、麦茶などを十分にとりましょう。汗で水分が失われた時は、特にしっかり補給するよう心掛けて下さい。
④野菜は十分に取りましょう
野菜は、ビタミン、ミネラルを多く含むアルカリ性食品です。体内の酸性、アルカリ性は食事に関係なく調節されていますが、尿中は食事のとり方により多少変化します。尿酸は、アルカリ性、中性によく溶けます。尿酸の排泄を促進させるためにも、野菜、果物、いも類などのアルカリ性食品を十分にとりましょう。尿路結石の予防にもなります。
⑤塩分はは控えましょう
痛風は、高血圧、高脂血症などを悪化させます。血圧に関係する塩分は控えましょう。
⑥バランスの良い食事にしましょう
高尿酸血症の人は 肉や魚に片寄った食事をしている人が多いのも特徴で このような場合、芋類、野菜、海藻、キノコ類などを適度に取り入れたバランスの良い食事を心掛けることが必要です。バランスの良い食事は、合併症となる動脈硬化や腎臓病の予防のためにも必要です。
尿酸値を下げる・プリン体の排泄を促す食べ物・飲み物
・牛乳・乳製品
牛乳やヨーグルトなどの乳製品はプリン体が少なく、尿酸値を下げる働きがあると言われています。
・ビタミンCを多く含む食材
キャベツやジャガイモ、果物などに含まれるビタミンCは尿酸排泄を促す働きがあるとされています。
ビタミンCは水溶性で熱にも弱い特性があるので、長時間水にさらしたり、加熱したりせず、短時間で調理することがポイントです。いも類のビタミンCはでんぷんに守られており、調理による損失は少ないためおすすめです。ほうれん草などの野菜、干ししいたけなどのきのこ類やひじき、わかめなどの海藻類など、尿をアルカリ化し尿酸の排出を助ける食品も摂るよう心がけましょう。
注射
痛風がもっとも起こりやすい母趾MTP関節(足の親指の付け根)にエコーガイド下でステロイド入りの注射を行います。痛みに対して即効性がありますが、結晶が消えるわけではありません。一度発作が起こると、治療薬の内服をしっかり継続し、尿酸値を6.0mg/dl以下をキープしていても、結晶が消えるまで数年かかると言われています。痛風発作の予防だけでなく、合併症予防のためにも、治療薬の内服をしっかり継続しましょう。
薬物治療
以下の内服薬を病態に合わせて使用しています。
副作用が比較的少ないことや腎機能低下症例にも比較的使用許容度が高いことから、当院ではフェブキソスタット(フェブリク®)をよく処方しています。
いきなり高用量や維持量を内服すると、痛風発作を誘発する恐れがありますので、徐々に用量を増やしていく必要があります。
治療開始後は、尿酸値を6.0mg/dl以下にすることが重要です!!
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一般名 |
商品名 |
内服方法 |
尿酸生成抑制 |
フェブキソスタット |
フェブリク® |
10mg/日から開始し、数週間かけて40mg/日まで増量(最大60mg) |
アロプリノール |
ザイロリック® |
100mg~300mgを1~3回に分けて内服 |
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尿酸排泄促進薬
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ベンズブロマロン |
ユリノーム® |
25mg~100mgを1~2回に分けて内服 |
ドチヌラド |
ユリス® |
0.5mg 1回/日から内服開始 必要に応じて徐々に増量 |
尿酸排泄促進薬を使用するとき、尿が酸性だと尿路結石ができやすくなりますので、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物錠(ウラリット®)を併用することがあります。
ウラリット
※効能効果:痛風並びに高尿酸血症における酸性尿の改善
※用法・用量:通常成人1回2錠を1日3回経口投与(尿検査でpH6.2から6.8の範囲に入るよう投与量を調整する)
尿路結石の既往ある方では、尿酸生成抑制薬が好ましいとされています。
痛風発作の予防薬「コルヒチン」
前兆期には、痛風発作の発生を抑えるために一時的に痛風発作予防薬(コルヒチン®)を使用することがあります。
痛風発作の引き金は、白血球による関節に貯まった尿酸への攻撃です。白血球が、剥離した尿酸を異物としてとらえてしまうのです。コルヒチンには、白血球が関節内に集まるのをおさえる作用があります。したがって、痛風発作の初期段階に用いと効果的です。また、発作が頻回な場合は、しばらくのあいだ少量を定期服用することがあります(コルヒチン・カバー)。尿酸を減らす作用はなく、腎障害などの重篤な副作用の恐れもあることから、長期にわたり漫然と用いることはしません。
発作時:通常、成人は1回1錠(主成分として0.5mg)を3〜4時間ごとに、1日6~8回服用しますが、年齢・症状により適宜増減されます。1日量は3~4mgとされています。
発作予防:通常、成人は1日1〜2錠(主成分として0.5〜1mg)を服用します。
発作予感時:通常、成人は1回1錠(主成分として0.5mg)を服用します。
尿酸値を下げるための生活習慣
尿酸値が高くなるのは、遺伝的な要因もありますが、生活習慣の乱れが大きく影響しています。
尿酸値は生活習慣の改善でコントロールができます。規則正しい、バランスのとれた食事や軽めの運動、適度な休息をとることを心がけましょう。
・肥満の解消
肥満体は、プリン体を合成しやすく、尿酸の排泄機能が低下する傾向にあります。尿酸値が高めで肥満気味の方は、脂肪や糖分の摂りすぎに注意し、適切な体重に戻すことが重要です。最近ではプリン体の制限だけでなく肥満にならないようカロリー制限をすることも重要視されています。基本的なことですが、1日3食規則正しく食べる、野菜を多く食べる、腹八分目にするなどの心がけが必要になります。
・栄養バランスがとれた食事を規則正しく
尿酸値を下げるためには、プリン体を控えめにし、バランスのとれた食事を心がけましょう。
また、尿酸値が高まると尿が酸性に傾きやすくなり、尿酸が排出されにくくなります。尿をアルカリ化する野菜やきのこ、海藻をしっかり摂るようにしましょう。
・適度な運動を心がける
尿酸値を下げるためには、有酸素運動を行いましょう。
激しい動きによる無酸素運動は、新陳代謝を活発化し尿酸値を高めてしまうため、ウォーキングなどの軽い有酸素運動を定期的に行うことがおすすめです。
・ストレスを溜め込まない
尿酸値を下げるためには、ストレスを溜め込まないこと。
ストレス過多や脳を酷使する仕事をし過ぎると、尿酸値に影響を与えると言われています。お気に入りの本を読んだり、音楽を聞いたり、自分がリラックスできる時間を作るようにしましょう。
よくある質問
血液検査で尿酸値が高いと指摘されました。痛風発作は起きていませんが、どうしたらよいでしょうか?
尿酸値が高いからといって、すぐに痛風発作が起こるわけではありません。
ただ、尿酸値が7.0mg/dl以上の状態が5年以上続くと、痛風発作が起こりやすくなります。高尿酸血症を指摘されたら、早めに治療薬の内服を始めましょう。
プリン体が多いビールを控えていれば大丈夫ですか?
尿酸値は、プリン体だけでなく、アルコールそのものでも上がります。
プリン体ゼロの焼酎やビール類などに変更しても、飲みすぎてしまうと意味がありません。
できれば薬を飲みたくないのですが・・・
実は、厳格に食事制限しても、尿酸値の低下はわずかしかありません。一生ストイックな食生活を送るよりも、ゆるやかな食事制限を行いつつ、食べすぎ・飲みすぎに注意しながら、治療薬の内服を継続していただくほうが効果的です。
治療を始めたのに、発作が起こってしましました。このままの治療を続けて大丈夫ですか?
治療開始して2ヶ月目頃に一時的に発作が起こりやすくなります。治療により急激に尿酸値が下がったときにも発作が起こりやすくなります。緩やかに薬を増やしていきましょう。
発作の痛みが出なくなり、尿酸値も正常なので、薬をやめてもいいですか?
治療は薬物で尿酸値を下げて、関節内の尿酸を溶かします。尿酸値が数年間高い状態で治療を受けていなかった方は、治療開始から消えるのに数年以上かかります。尿酸でできた尿路結石も同様です。治療薬をやめると尿酸値が上がってしまうことが多いので、基本的には治療の継続をお勧めいたします。