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SIRVA(ワクチン接種に関連した肩関節障害)

新型コロナウイルスのワクチンなど、ワクチン接種後に一時的な免疫反応で接種部位の腫れや痛みが出たりすることがありますが、通常は2,3日で徐々に軽快していきます。この痛みは、カロナールやロキソニン等の非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の内服で軽快することが多いです。また、遅発性のアレルギー反応として数日から1週間くらい経ってから、ワクチンを接種した腕のかゆみや痛み、腫れや熱っぽさ、赤みが出てくることがあります。こちらも数日で自然軽快します。

ただし、接種後2週間を超えて痛みが持続する場合、SIRVA(Shoulder Injury Related to Vaccine Administration)というワクチン接種に伴う肩の痛みが発生している可能性があります。

近年、整形外科医に注目されているSIRVAは「ワクチン接種に関連した肩関節障害」と訳され、ワクチン接種後に生じる肩の急性炎症(肩関節周囲炎、滑液包炎、腱板炎など)で、肩の疼痛の持続・可動域制限(腕が上がらなくなる、後ろに回らなくなるなど)が発生します。症状や病態は四十肩や五十肩と呼ばれる肩関節周囲炎に近い状態と考えられます。原因は三角筋下滑液包(三角筋という肩の筋肉の深い場所にある袋)内への不適切な薬剤注入によると考えられていますが、個人個人や年齢によって解剖学的構造は少しずつ異なりますし、現実的にワクチンの注入部位や深度を証明するのは困難で、手技に関わらず起こる可能性もあります。

米国で2010年頃に報告されたのをきっかけに徐々に報告数が増えていますが、まだ日本での報告は少なく、整形外科医以外には聞き慣れない病名だと思います。海外の報告によると、ワクチン接種後数時間から2日程度の間に肩関節の強い自発痛を生じ、自然に改善しないことが多いようです。新型コロナワクチンの接種では、三角筋の強い痛みを生じることがしばしばあるようなので、早期に診断することは難しいかもしれません。問題は、そのような痛みが数ヶ月以上持続し、慢性疼痛に移行してしまうことがあることです。

また、SIRVAには腋窩神経損傷も含まれているかもしれません。ワクチン筋肉注射に関する多くの手技解説には、穿刺部位について「肩峰から3横指(5cm)下」と書かれていますが、その部位には三角筋を支配し肩関節の外転を司る腋窩神経が走行しています。ワクチン接種後に肩を挙上しにくいなどの症状が出たら腋窩神経損傷の可能性もあると思います。診断の際には両肩を十分に露出した上で三角筋の収縮力の低下を観察します。

ワクチン接種から数日経っても安静時に軽減することのない強い肩の痛みが続く場合は、肩関節の超音波検査(エコー)やMRIで、摂取部位の三角筋ではなく、肩関節の滑液包を中心として広範囲に炎症を示す所見があれば、より積極的にSIRVAを疑うことができます。初期の治療としては、滑液包内へのステロイド投与を検討します。早めに整形外科へ受診することをお勧めします。

ワクチン接種後に肩の痛みが長期化し、肩関節周囲炎(四十肩、五十肩)のような状態から、痛みから来る悪循環でこじらせてしまうと凍結肩と呼ばれる状態になることもあり、この場合は夜間の肩の痛みや高度の可動域制限が持続します。放置しても自然治癒は望みにくいため、早めにリハビリテーションを主体とした積極的な治療介入が必要となります。

当院ではワクチン接種後に肩関節周囲炎や凍結肩となった患者さまが多く来院されており、消炎鎮痛剤の内服とともに、早期から肩関節内ステロイド注射や理学療法士と行うリハビリテーション、自宅で行う運動指導を行っています。

ワクチン筋肉注射後の接種部位の痛み、腫れ、筋肉痛、関節痛は通常2、3日で軽快していき、長くても2週間以内に軽快することがほとんどです。さらに続く場合はSIRVAや肩関節周囲炎などの可能性がありますので、ワクチン接種後に肩が痛い、肩が上がらないなどでお困りの方は早めの受診をお勧めいたします。

 

Q. もともと五十肩で肩が痛いです。五十肩の側の腕にワクチン接種しても大丈夫ですか?

五十肩や四十肩は肩関節周囲炎の俗称で、すでに肩の炎症により疼痛、可動域制限があることが多いです。
ワクチン接種により、腫脹や炎症、痛みが悪化する可能性があるため、逆側の腕にワクチンを接種することをお勧めします。
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